第21回遺伝子実験施設セミナー「精子形成に関する最新の話題」
細胞接着分子による精子形成の制御
熊本大学大学院生命科学研究部・生体微細構築学分野 教授
若山 友彦
精子形成を調節する因子は、内分泌因子や精巣内局所因子のほか、細胞間相互作用に関与する細胞接着分子がある。精巣には多くの細胞接着分子が発現するが、造精細胞とセルトリ細胞間の相互作用に関係する細胞接着分子は、異種分子間結合をする。すなわち、造精細胞に発現する細胞接着分子CADM1、JAM-C、Nectin-3は、それぞれセルトリ細胞に発現するPVR、JAM-B、Nectin-2と結合する。CADM1、JAM-C、Nectin-2およびNectin-3の遺伝子欠損マウスでは、造精細胞が脱落するだけでなく、分化異常、特に、減数分裂後の精子細胞の分化異常が見られる。精子細胞に発現するCADM1とNectin-3の局在部位は対照的で、伸長精子細胞の尾側の細胞膜に局在するCADM1に対して、Nectin-3は頭部の細胞膜に局在する。発現部位に対応して、CADM1の遺伝子欠損マウスでは、尾側の細胞質の形態と細胞内小器官の分布に異常が見られる。一方、Nectin-3の遺伝子欠損マウスは、先体や頭部の形態に著しい異常が見られる。以上から、細胞接着分子は精子形成の調節因子として機能し、精子細胞の形態形成に強く関与することが示唆される。