第11回遺伝子実験施設セミナー「ゲノム研究の最前線」
「p53遺伝子ファミリー研究の新展開」
札幌医科大学 医学部附属がん研究所分子生物学部門教授
時野 隆至
がん抑制遺伝子p53はヒトがんで最も高頻度に遺伝子変異が認められる重要な遺伝子であり,その遺伝子産物は転写因子として機能する.p53結合性コンセンサス配列に高い相同性を有する塩基配列はヒトゲノム上に10万箇所以上も存在するが,そのうちのごく一部のみが細胞内でエンハンサー配列として機能している.本研究室ではゲノム上のp53応答配列(p53RE)に着目し,in silico解析によるp53標的遺伝子群の網羅的な予測・同定を行っている.ヒトおよび齧歯類で保存されているp53結合性配列を同定するアルゴリズムを構築し,p53応答性配列(p53RE)の候補を網羅するデータベースの作成した.これら候補遺伝子の発現におけるp53応答性を種々の腫瘍細胞株・誘導条件で検討し,さらにChIPアッセイにより候補RE配列とp53タンパクとの結合性を確認した.このようにして,比較ゲノム解析により抽出されたp53結合性配列の30% がエンハンサー配列として機能し,一次配列の情報は発現解析と組み合わせることによって,効率よくp53標的遺伝子の網羅的な同定が可能であることを明らかにした.
時間が許せば,p53ファミリーのがん治療への応用をめざした基礎的研究についても報告したい.非増殖性アデノウイルスベクターによるp53遺伝子治療は日本でも肺癌・食道癌に対する臨床試験が行われ,新しいがん治療戦略として期待されている.しかしながら,導入効率や腫瘍抑制活性の低さから,根治を目指した治療に至っていないのが現状である.本研究室で進行中の(1)アデノウイルス導入効率の改良,(2)腫瘍抑制活性の増強,(3)p53ファミリー遺伝子の利用についての成果も言及したい.