第15回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「転写因子MafBによるマクロファージの貪食機能制御」 

  筑波大学 生命科学動物資源センター 教授 高橋 智

 マクロファージはその貪食機能により、体内に侵入した異物や病原体を排除するだけでなく、生体内で日々大量に産生される死細胞の除去においても重要であり、その貪食機能が十分に発揮されないと、死細胞から放出される自己抗原に対する免疫反応が誘導され自己免疫疾患が発症すること、組織障害からの回復が遅延することが報告されており、生体恒常性の維持に必須であることが認識されつつある。しかしながら、マクロファージの貪食機能の制御については、その分子機構はほとんど明らかにされていない。私たちは、マクロファージに発現している転写因子MafBが、死細胞の貪食に重要であるC1qや、スカベンジャーレセプターであるMSR1のマクロファージでの発現誘導に必須であること、またMafB欠損により、貪食した異物ストレスによるアポトーシスを抑制する分子であるAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)のマクロファージでの発現が誘導されないことを明らかにした。このように、MafBはマクロファージが専門的な貪食細胞として機能を発揮するために必須の転写因子であると考えられる。

参考文献
1. Tran MTN, Hamada M, Shiraishi R, Asano K, Hattori M, Nakamura M, Hyojung J, Koshida R, Kamei R, Matsunaga Y, Kudo T, Oishi H, Takahashi S. MafB is the primary regulator of complement component C1q. Nat Commun. in press.
2. Shichita T, Ito M, Morita R, Komai K, Noguchi Y, Ooboshi H, Koshida R, Takahashi S, Kodama T, Yoshimura A. MAFB prevents excess inflammation after ischemic stroke by accelerating clearance of damage signals through MSR1. Nat Med. 23, 723-732, 2017
3. Hamada M, Nakamura M, Tran MT, Moriguchi T, Hong C, Ohsumi T, Dinh TT, Kusakabe M, Hattori M, Katsumata T, Arai S, Nakashima K, Kudo T, Kuroda E, Wu CH, Kao PH, Sakai M, Shimano H, Miyazaki T, Tontonz P, Takahashi S. MafB promotes atherosclerosis by inhibiting foam-cell apoptosis. Nat Commun. 5, 3147, 2014.