第17回遺伝子実験施設セミナー「バイオリソース最前線・パート2」

革新的技術開発によるラットリソースの展開 

〜最新ゲノム編集技術によるモデルラットの開発とフリーズドライによる精子長期保存〜 

   京都大学 大学院医学研究科 附属動物実験施設 講師  金子 武人 

 NBRP-Ratでは、これまで約650系統のラットの収集・保存・提供を行ってきた。収集系統の多くは自然発症、トランスジェニック・コンジェニック系統であるが、近年では、Zinc Finger Nucleases(ZFNs)やTranscription Activator-Like Effector Nucleases(TALENs)を利用したES細胞不要の短期間で簡易なノックアウトラット作製法が開発された1)。このような状況から、今後ラット新規系統の増加およびラットを用いた研究の活性化が予測され、これらをリソースとして扱うバイオリソース事業の基盤整備が必要とされる。

 一般的に、精子や受精卵の保存には液体窒素が用いられているが、保存系統増加に伴う設備増設および液体窒素使用量増加等のコスト増は避けられない。さらに、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大地震、台風等の災害による設備の破損や液体窒素の供給途絶を考えると、液体窒素に頼らない遺伝資源保存法は魅力的である。フリーズドライ(凍結乾燥)は、インスタントコーヒーや医薬品の長期保存に汎用されている技術であり、フリーズドライした精子からも産子作製が可能である。現在フリーズドライ精子は、冷蔵庫(4℃)による長期保存および常温国際輸送が可能となり、液体窒素不要の新規遺伝資源保存・輸送法として実用段階にある2,3)。

 本講演では、ZFNs/TALENsを用いたノックアウトラット作製法およびフリーズドライ精子長期保存法について紹介したい。

 参考文献

 1. Mashimo T et al. Generation and characterization of severe combined immunodeficiency rats. Cell Rep 2(3): 685-694, 2012.

 2. Kaneko T, Serikawa T. Successful long-term preservation of rat sperm by freeze-drying. PLoS One 7(4): e35043, 2012.

 3. Kaneko T, Serikawa T. Long-term preservation of freeze-dried mouse spermatozoa. Cryobiology 64(3): 211-214, 2012.