第5回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「Sonic hedgehog (Shh)遺伝子の発現制御にかかわる染色体ダイナミクス」 

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 教授

熊本大学 生命資源研究・支援センター 技術開発分野 客員教授 城石 俊彦 

 発生・形態形成関連遺伝子の発現制御には、転写因子のシス制御配列への結合に加えてクロマチン構造の変化が重要な働きをすることが知られている。最近では、幾つかの遺伝子において転写開始点から数百kb離れた、いわゆる遠隔エンハンサーの存在も明らかになり、間期核内で遠隔エンハンサーと転写開始点の物理的接近をもたらす高次の染色体動態が発生・形態形成関連遺伝子の発現制御に重要であるという可能性が提唱されている。我々は、形態形成に働くシグナルタンパク質をコードするSonic hedgehog (Shh)遺伝子の組織特異的発現を制御するエンハンサーの体系的な探索を進めてきた。その結果、四肢が発生する肢芽での特異的発現が1つの遠隔エンハンサー (MFCS1) によって制御されること、それ以外に3つの進化的保存配列を持つエンハンサーがShh転写開始点からおよそ600-840Kb上流に存在し、各々口腔、咽頭、腸管の各上皮組織でのShh発現を制御することを明らかにしてきた。これらの遠隔エンハンサーによる制御機構を理解するために、3D-FISH法やChromosome Conformation Capture (3C) Assay法を用いてShh遺伝子座領域の染色体動態を解析したところ、肢芽特異的エンハンサーであるMFCS1が活発に転写の起こっている発生肢芽の特定の細胞でのみ転写開始点に物理的に相互作用し、さらに転写とカップルしてShh遺伝子座がその遺伝子座が存在するマウス第5染色体のテリトリーから突出(ループアウト)することがわかった。これらの結果から、Shh遺伝子の組織特異的な転写制御に高次の染色体ダイナミクスが関与することが明らかとなった。