第6回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「接着分子CD44の多彩な機能」 

  慶應義塾大学 医学部 先端医科学研究所 教授

  熊本大学 生命資源研究・支援センター

         バイオ情報分野 客員教授 佐谷 秀行 

 癌細胞は多段階のステップを踏んで転移することが知られている。そのステップは、癌細胞が原発巣の母集団から離れ、周囲組織へ浸潤することから始まる。近年、この過程に、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)と呼ばれる可逆的な細胞の形質変化が関与することが明らかになってきた。EMTの誘導と維持には、細胞表面に存在する接着分子と腫瘍細胞周辺の微小環境の相互作用が重要な役割を果たす。CD44は細胞外マトリクスの成分であるヒアルロン酸と主に結合する接着分子であり、生理的のみならず様々な病理的状況下において細胞の運動や組織再構築をコントロールしていることが知られているが、私たちはCD44とヒアルロン酸を介したマトリクスとの相互作用が、癌細胞のEMT誘導と維持に中心的な役割を果たし、癌の浸潤転移を決定づける重要なイベントであることを見出した。また近年、CD44は様々な癌幹細胞のマーカーとしても脚光を浴びており、その機能的な関与が注目されている。これらCD44の多彩な機能を裏打ちする分子背景について最近のデータを示したい。