第15回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「生活習慣病・がんの共通分子基盤解明〜健康長寿社会実現への挑戦」 

  熊本大学 大学院生命科学研究部 分子遺伝学 教授 尾池 雄一

 本邦の健康寿命は、男女ともに世界一位(男性 約 71 歳、女性 約 76 歳)だが、平均寿命との差は男女とも大きい。超高齢化社会を迎える本邦にとって、健康寿命をさらに延伸しその差を縮める取り組みが重要である。特に、疾患別死因の一位であるがんと二位である心血管疾患の予防や、早期診断による早期治療は、平均寿命のみならず健康寿命を延伸するために重要である。がんも心血管疾患もともに加齢に伴い増加する加齢関連疾患である。近年、これらの一見異なる疾患に共通する基盤病態として「慢性炎症」が存在すること、細胞レベルの老化(細胞老化)が「慢性炎症」を惹起•増悪に寄与すること、組織レベルの「慢性炎症」が個体の加齢の増悪に寄与することが注目されている。我々は一連の研究により、単離•同定しその機能を解明してきたアンジオポエチン様因子 2(ANGPTL2)が、近年注目を集めている Senescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)因子の一つであること、がんと心血管疾患の共通基盤病態として注目を集める「慢性炎症」の誘導、さらに心血管疾患、がんの両病態への進展に重要な役割を果たしていること、またその血中濃度が将来の健康寿命の予測に役立つこと等明らかになってきた。

 本セミナーでは、SASP の一つとしての ANGPTL2 の観点から、メタボリックシンドローム、心血管疾患、がん等の加齢関連疾患の発症および進展の分子基盤に関する我々の知見をご紹介し、健康長寿社会実現にむけた新規予防および治療戦略についてご紹介したい。