第21回遺伝子実験施設セミナー「精子形成に関する最新の話題」
精巣組織培養の進歩と課題
横浜市立大学医学群分子生命医科学系列創薬再生科学(生命医科学)
横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器科学 教授
小川 毅彦
器官培養法の歴史は古く、それを用いたin vitro精子形成の試みも20世紀初頭に遡れるが、その基本は1960年代に確立されたGas-liquid interphase法(気層液層境界部培養法)であり、現在でも主としてこの方法が用いられている。私たちはアガロースゲル上に精巣組織片を乗せて、培養液に血清代替物(KSRあるいはAlbuMAX)を加えることで、マウス精子形成が完遂できることを示した。産生された精子を顕微授精することで産仔も得られる。さらに精巣組織は凍結保存でき、解凍後に培養することでも精子産生でき、産仔も得られる。
しかしながら現在の器官培養法では、精子産生の効率や持続期間の点で生体内(精巣内)の精子産生にははるかに及ばない。私たちは、二つの側面から培養法の改良を試みている。化学的側面(培養液の改良)と物理的側面(気層液層境界部法の改良)である。現在の培養液には、KSR/AlbuMAXという血清代替物を添加しているが、その組成が明らかではない。培養液の改良に当たっては、まず化学組成の明らかな培養液を作製し、それによる精子形成誘導を試みている。またマイクロ流体システムを導入し、従来の気層液層境界部培養の弱点を克服する試みも行っている。これら培養条件の改善により、in vivo条件に近似した培養法の開発が少しずつではあるが進行している。それらの成果と課題について発表したい。