第13回遺伝子実験施設セミナー「ゲノム・ルネッサンス」

「機能スクリーニングによる肺がん原因遺伝子の発見」 

   自治医科大学 分子病態治療研究センター 

          ゲノム機能研究部 教授 間野 博行

 肺がんは先進国におけるがん死因の第一位を占める極めて予後不良の疾患であり、その治療成績を向上させるためにも発症原因に基づく新しい治療法の開発が待たれている。我々は肺がんにおける新たな原因遺伝子を同定する目的で組換えレトロウィルスを用いたがん遺伝子スクリーニング法を開発し、focus formation assayと組み合わせることで、微少管会合タンパクEML4のアミノ末端側半分と受容体型チロシンキナーゼALKの細胞内領域とが融合した活性型チロシンキナーゼEML4-ALKを発見することに成功した(Nature 448:561)。EML4-ALKはEML4内のcoiled-coilドメインを介して二量体化し恒常的に活性化されることで強いがん化能を獲得する。本遺伝子を標的としたRT-PCR法は極めて精度の高い肺がんの早期発見法となるだけでなく(Cancer Res 68:4971; Clin Cancer Res 14:6618)、本遺伝子産物の酵素活性を阻害する化合物はEML4-ALK陽性肺がんの全く新しい分子標的治療剤になると期待される。実際EML4-ALKを肺胞上皮特異的に発現するマウスは数百個の肺がんを同時に発症するが、抗ALK阻害剤を投与するとこれら腫瘤は速やかに消失した(PNAS, Epub ahead of print)。また小川誠司博士らが発見した点突然変異ALKが神経芽細胞腫の原因となることもあわせ(Nature 455:971)、ALK阻害剤がこれら“ALKoma”の共通の治療剤になると期待される。