第12回遺伝子実験施設セミナー「クマダイで育った若きリーダーたち」

「バイオリソースの整備やバイオ情報の整理に

  根差した個別生命現象の理解 〜癌関連分子を例として〜」 

   かずさDNA研究所 ヒトゲノム研究部 ゲノム医学研究室 室長 古閑 比佐志 

 近年、急速かつ大規模にライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソースの整備が進んでいる。またバイオ情報の有用性から、主にデータベースの更新・統合などによってその整理も進んでいる。一方、このような国家的規模での整備・整理事業が、個別の生命現象あるいは疾患研究に反映されていないと感じている研究者も多いのではないだろうか?

 かずさDNA研究所は千葉県が母体となり運営されている研究所だが、国家規模の研究を行うほど大きくもなく、大学のように個別の研究に傾注できるほどその学術基盤は深くない。このようなある意味「中途半端な研究所」を維持・発展させるためには、最も適した研究領域(ニッチ)において研究を行うしかないだろう。

 我々のグループは長鎖cDNA(KIAA/mKIAA遺伝子群)という従来クローニングが困難であった(現在ではもうこの領域にもニッチは存在しないが)分子をターゲットとして「ある程度」網羅的なバイオリソースの整備やバイオ情報の整理、さらには解析プラットフォームの構築(抗体マイクロアレイなど)を行なってきた。イノベーションに伴い研究自体が大きく左右されることから(例えばシークエンス手法の発展を考えてもらいたい)、自らのニッチも常に再考する必要がある。我々は長鎖cDNAから蛋白質レベルでの転写因子解析にそのニッチを移しつつあるが、蛋白質としての転写因子自身は、発現量も低くかつ時期・部位特異的な一過性の発現のため、その詳細な解析は現在においてもなお多くの困難を抱えているからである。

 本講演では具体的な我々研究グループのアプローチを紹介するとともに、バイオリソースの整備によって新たに得られた癌関連分子の知見を紹介し、バイオリソースやバイオインフォマティクスの有効な活用法に関して議論したい。

 最後に、本講演がかずさDNA研究所と熊本大学との、新たな研究フレームワークに発展することを大いに期待致します。