第3回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「マウス遺伝学:クローズドコロニーに内在する自然突然変異」 

  浜松医科大学医学部附属動物実験施設 助教授 加藤 秀樹 

 ICRに代表されるマウスのクローズドコロニーは繁殖性に優れ、また近交系に比べて安価であることから動物実験においてよく使われてきている。クローズドコロニーマウスは1900年代はじめのヨーロッパに遡ることができ、由来する国名をとってスイスマウスあるいはドイツマウスと呼ばれることもある。いずれも毛色が白、眼が赤で、典型的なアルビノマウスである。このように長い歴史を持ち、動物実験において必要不可欠な存在であるが、近交系マウスや野生マウスは遺伝学研究の対象となったのに対して、クローズドコロニーマウスはほとんどその対象となることはなかった。その一方で、クローズドコロニーマウスからは様々な近交系や疾患モデル系統が作出されており、塩野義製薬で開発されたICRマウスに由来する1型糖尿病モデルのNOD/Shiはその一つとして広く知られている。

 演者は約20年前にクローズドコロニーの遺伝形質、特に系統の識別のための標識となる遺伝子に注目して調査研究を開始すると共にクローズドコロニーから近交系を育成する研究にも着手した。その結果、高い遺伝的多型性が保たれていることを明らかにし、また、育成過程でHpd(4-hydroxyphenylpyruvic acid dioxygenase, Chr5)の異常によるHypertyrosinemiaマウスやTtc7(tetratricopeptide repeat domain 7, Chr17)の異常によるFlaky skinマウスを発見するなど、種々の疾患関連遺伝子を見出した。この数年はクローズドコロニーマウスに内在する劣性突然変異に焦点をあてて研究を進めてきており、Tpo(thyroid peroxidase, Chr12)の異常によるDwarfマウスを見出すなど4頭に1頭が何らかの劣性突然変異遺伝子を保有していることを明らかにした。

 以上、本シンポジウムでは演者らがこれまで行ってきたクローズドコロニーマウスの遺伝学的解剖の結果を紹介すると共に実験動物としてのマウス、ラットのクローズドコロニーが抱える問題点について言及する。