第20回遺伝子実験施設セミナー「マイクロバイオーム」

消化器病専門医はいかにオミックス研究を展開すべきか? 

   慶應義塾大学 医学部 内科学教室 消化器内科  教授  金井 隆典 

 人類にとって20世紀は致死性感染症との戦いであり、その克服の背景には衛生環境の整備や栄養などさまざまな要因が考えられるが、何と言っても抗生物質の発見がブレイクスルーである。感染症の克服とは反対に増え続けてきている疾患群として炎症性腸疾患がある。なぜ、約50年前から先進国で増えてきたのかを考えてみると生活環境の変化による‘腸内細菌’が考えられるわけである。これまで人類にとって格下のような存在であった‘腸内細菌’が、実は人類の健康を保持するための司令塔であることがわかってきた。なぜならば、‘腸内細菌’は、100万個以上の遺伝情報(ヒト由来遺伝子は2万個)をヒトへ提供する新臓器である。事実、炎症性腸疾患患者の“腸内細菌”は単純化し、細菌の構成パターンの乱れ(ディスバイオーシス)が近年の次世代シークエンサーを用いた解析でわかってきた。近年、腸内細菌の乱れを是正する目的で、健康なヒトの糞便を移植して炎症性腸疾患を治療しようとする糞便微生物移植治療 (Fecal microbiota transplantation; FMT)も始まった。さらに、ヒト糞便由来の善玉菌を分離培養し、ミックスして大量に投与する方法の開発も進んでいる。本講演では、腸内細菌と消化管疾患について、“眼から鱗”の連続の腸内細菌にまつわる最近の話題を紹介したいと考えている。