第18回遺伝子実験施設セミナー「バイオリソース最前線・パート3」

老化耐性・がん化耐性ハダカデバネズミの分子生物学的研究の展開 

   慶應義塾大学 医学部生理学 ハダカデバネズミ研究ユニット 特任講師  三浦 恭子 

 ハダカデバネズミ(Naked mole-rat, NMR)は、地下の低酸素環境に適応した低代謝動物であり、アリやハチに類似した集団生活を営む。マウスと同等の大きさながら異例の長寿(平均寿命28年)であり、自発的な腫瘍形成が認められていない。我々はNMRを抗老化・抗がん化・社会性解析のためのモデル動物として起用し、iPS細胞の樹立・遺伝子配列/発現情報の取得・MRI脳アトラスの整備など、基礎的な研究基盤を確立してきた。樹立したNMR-iPS細胞の解析を進めた結果、興味深いことに、ヒト・マウス多能性幹細胞において強く発現が抑えられるがん抑制遺伝子Arfが、NMR-iPS細胞では樹立過程後期から一貫して抑制を受けず、さらに樹立したNMR-iPS細胞は腫瘍化耐性をもつことが判明した。今回明らかになった現象がiPS細胞のみならずNMR個体のがん化耐性機構に関与する可能性も考えられるため、今後さらなる解析を進める。これらを踏まえ現在は、細胞生物学的解析とオミクス解析のアプローチにより、NMRの老化・がん化への耐性を規定する機構や関与遺伝子群の同定と解析を進めている。本会では現在の進展を報告する。