第15回遺伝子実験施設セミナー「ステムセル 〜その生理と病理〜」
「造血系における腫瘍幹細胞」
九州大学 医学研究院 病態修復内科(第一内科) 教授
赤司 浩一
少なくとも一部の腫瘍では、腫瘍組織の多彩な細胞は少数の腫瘍幹細胞(Cancer stem cells)に由来し、腫瘍幹細胞の根絶こそが治癒と同義であると考えられる。造血器悪性腫瘍においては、腫瘍幹細胞の概念が古くから取り入れられ研究が進んできた。現在では,フローサイトメトリーによるヒト白血病幹細胞の濃縮、そのヒト白血病をマウスの中で再構築するためのin vivoアッセイシステムの開発が進み、さらに分子生物学的情報を基に正常幹細胞から白血病幹細胞を作り出すことが可能になっている。いわゆる白血病原因遺伝子は、チロシンキナーゼ異常に代表される増殖刺激や生存強化シグナルを受け持つクラス1変異、転写因子異常など分化抑制を誘導するクラス2変異に大別される。これらの異常を単独、あるいは組み合わせて正常細胞に導入することにより、幹細胞や前駆細胞から白血病幹細胞への変化過程を再構築できる。また、骨髄系の白血病幹細胞とリンパ球系白血病幹細胞は、癌幹細胞化段階や自己再生メカニズムに大きな違いがあることもわかってきており、それぞれに特化した治療のための細胞標的、分子標的の研究が進んでいる。本口演では、造血系の腫瘍幹細胞の同定と性状についての我々の最近の研究成果を取り上げ、白血病幹細胞を標的とした新しい治療法開発の可能性を議論する。