第6回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「マウスモデルを用いた関節リウマチ発症機構の解析」 

  東京大学 医科学研究所 システム疾患モデル研究センター 教授

  熊本大学 生命資源研究・支援センター

            技術開発分野 客員教授 岩倉 洋一郎 

 ほ乳動物における胚遺伝子操作技術の発達は、様々な疾患モデルの作製を可能にするとともに、特定遺伝子の病態形成における役割を明らかにするための手段を提供することになった.我々はこれらの技術を用いて、HTLV-IトランスジェニックマウスとIL-1レセプターアンタゴニスト欠損(KO)マウスの2つの関節リウマチモデルを作製した.我々はこれらのモデルを用いて、関節炎局所で発現亢進の見られた種々のサイトカインやC型レクチンの関節炎発症における役割を検討した.その結果、いずれのモデルでもIL-1が病態形成に重要な役割を果たしていることを明らかにするとともに、IL-6、あるいはTNFを欠損させると関節炎の発症が強く抑制されることを示した.しかし、両方のモデルでこれらのサイトカイン欠損に対する感受性は異なっており、二つのモデルでサイトカイン依存性が異なることがわかった.我々はまたIL-17も関節炎発症に重要な役割を果たしていることを見いだしたが、IL-17ファミリーのなかで一番ホモロジーの高いIL-17Fは発症にはほとんど関与していないことがわかった.IL-17Fは黄色ブドウ球菌や病原性大腸菌の感染防御において重要な役割を果たしていた.この他、C型レクチンの一つで樹状細胞で強い発現が見られるDCIRが、関節炎局所で発現亢進していることを見いだした.DCIRを欠損させると唾液腺炎や付着部炎などを自然発症し、自己抗体価が上昇し、自己免疫を発症することがわかった.この時、樹状細胞の割合が増加していたことから、DCIRは樹状細胞の分化や増殖を負に制御することにより、免疫系の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが示唆された.このように、関節炎の治療標的として、IL-1やIL-6、TNF、IL-17などのサイトカイン、およびDCIRなどのC型レクチンが有望であることが示唆され、遺伝破壊マウス作製技術を用いたアプローチが創薬ターゲットの探索に有用であることが示された.