第21回遺伝子実験施設セミナー「老化と寿命」

細胞老化の分子メカニズムとその役割 

   大阪大学 微生物病研究所  教授  原 英二 

 私たちの身体を構成する細胞は、異常を感知すると増殖を停止する安全装置を備えている。細胞老化はこの安全装置の一つであり、細胞の異常増殖を抑えるがん抑制機構として生体の恒常性維持に寄与していると長い間考えられてきた。しかしその一方で、組織幹細胞に細胞老化が起こると、組織修復能が低下して個体老化を促進する可能性も指摘されてきた。また、最近の研究により細胞老化を起こした細胞(老化細胞)は単に細胞増殖を停止して大人しくしているだけではなく、炎症性サイトカイン、ケモカイン、増殖因子や細胞外マトリックス分解酵素など、炎症や発がんを引き起こす様々な分泌因子を高発現するSASPと呼ばれる現象を起こすことで加齢性疾患や生活習慣病の発症に関与していることも明らかになりつつある。 我々は細胞老化にはSASPに限らず様々な発がん促進作用があり、加齢や肥満に伴い体内に老化細胞が蓄積することが恒常性を破綻させ、がんを含めた様々な炎症性疾患の発症を促進することにつながると考えている。本講演では、細胞老化研究のこれまでの経緯と最近のトピックスを中心に細胞老化の恒常性維持に対する正と負の役割について紹介する。