第16回遺伝子実験施設セミナー「バイオリソース最前線」

モデル真核微生物「細胞性粘菌」の多面的利用価値 

   筑波大学 大学院生命環境科学研究科 漆原秀子 

 細胞性粘菌は土壌中に棲息する単細胞アメーバである。バクテリアを食べて分裂増殖するが、飢餓になると集合して多細胞化し、胞子の塊とそれを支える柄からなる子実体を形成するという独特の生活環で知られている。子実体の中では生殖細胞である胞子と体細胞に相当する柄細胞の役割分担が生じることから「社会性アメーバ」と呼ばれている。動物・植物・菌類のいずれにも属さず、系統進化的にも興味深い。単純な形態形成や細胞分化は発生生物学のモデルとして注目されてきたが、その他走化性や細胞分裂機構を解析する実験系としても重宝されている。一方、生理活性のあるユニークな低分子有機化合物を産生すること、肺炎の原因となるレジオネラ菌の感染宿主となることなどから、近年応用的な面での関心が著しく高まっている。代表種であるDictyostelium discoideum(キイロタマホコリカビ)のゲノム解析結果からは、ヒト病原遺伝子に対して酵母より多くのホモログをもつことも見いだされている。無菌培養が容易で形質転換を基本としたさまざまな分子生物学的手法が確立しているので、他種生物の遺伝子機能を解析するためにも利用できる。セミナーでは細胞性粘菌の野生株・標準株・変異株と遺伝子セットを提供している「NBRP-nenkin」の活動についても紹介させていただきたい。