第15回遺伝子実験施設セミナー「ステムセル 〜その生理と病理〜」

「造血幹細胞のニッチ制御」 

   慶應義塾大学 医学部 発生・分化生物学 教授 新井 文用 

 幹細胞は特別な微小環境 “ニッチ” との相互作用により自己複製能と多分化能のバランスを維持している。その制御には、ニッチ細胞から産生されるサイトカイン、接着分子、細胞外基質などの微小環境因子 (ニッチ因子) のシグナルが重要な役割を果たしている。これまでに成体骨髄内の造血幹細胞ニッチとして、内骨膜ニッチおよび血管性ニッチが同定されており、これらが互いに協調して造血幹細胞の維持に貢献していると考えられている。

 我々は、内骨膜ニッチを構成する細胞を分離し、その特性について解析をおこなった。その結果、ニッチ細胞は分化段階的、機能的に均質ではなく、間葉系前駆細胞、骨芽細胞前駆細胞、および成熟骨芽細胞により構成されることを見いだした。遺伝子発現解析の結果から、成熟骨芽細胞が細胞接着分子を高発現している一方、間葉系前駆細胞分画がサイトカイン・増殖因子を産生していることがわかった。この結果から、内骨膜領域では、間葉系前駆細胞、骨芽細胞など多様な細胞が複合的にニッチを構成し、造血幹細胞の静止状態の維持および自己複製能を制御していると考えられた。

 さらに本公演では、我々が最近取り組んでいる造血幹細胞の細胞分裂制御機構の解析について紹介したい。