第4回プロテオミクスシンポジウム

「プロテオーム医療創薬の技術的展望」 

   横浜市立大学大学院生体超分子科学専攻相関科学研究室 教授 平野 久 

 ゲノム解析の成果を活かして多数のタンパク質の機能や機能的なつながりを網羅的にハイスループットで分析するプロテオーム研究がポストゲノム研究として注目されている。特に、病態に係わるタンパク質を対象にした疾患(臨床、創薬)プロテオーム研究への関心は急速に高まっている。この研究によって、疾患に伴って発現が変動するタンパク質が検出されれば、それを診断マーカーや創薬ターゲット分子として利用できる可能性がある。

 がんに関連したタンパク質バイオマーカーはこれまでに1,261検出されている。そのうち、がん関連抗原として9種類のタンパク質が医療現場で利用されている(Barker 2006)。プロテオーム研究の進展に伴い、今後、この数は徐々に増大すると予測されるが、バイオマーカー数の増加を加速するためには、より効率的な疾患関連タンパク質の検出法、同定法、バリデーションの方法、そして検査法の開発が不可欠である。

 本講演では、質量分析装置(MS)を用いて疾患関連タンパク質を高感度、高精度かつハイスループットで検出・同定できる最新の方法や検出された疾患関連タンパク質の動態、機能ならびに機能ネットワークを解析し、バイオマーカーや創薬ターゲットとしての有用性を評価する方法の開発研究の現状を述べる。

 特に、バイオマーカー、あるいは、リン酸化ペプチドのような翻訳後修飾を受けたペプチドを選択的に検出できるMRM (Multiple reaction monitoring)、トリプルステージ四重極MSや四重極リニアイオントラップMSにおいてペプチドのN-Cα結合を切断できるETD (Electron transfer dissociation)、ならびにMSと組み合わせてタンパク質の定量的ショットガン分析を行うことができるiTRAQ (Isobaric tag for relative and absolute quantitation) の有用性を示す。

 また、翻訳後修飾を受けたタンパク質を網羅的に検出するための新しい方法についても言及する。

 さらに、最新の技術を用いてがん組織などで特異的に存在量が変動するタンパク質を分析した結果を紹介する。

 また、最近、中空糸膜を用いて試料を前処理した後、ショットガン質量分析を行うことによって、3千種類ほどの血漿タンパク質を検出・同定できるようになったが、この方法を用いてがん組織で特異的に検出されたタンパク質を血液中で同定できるかどうか調べた結果や、iTRAQを用いて血液中の疾患関連タンパク質を定量的に分析した結果にも言及したい。