GTC On Line News No.694

2006年 4月22日
=== 遺伝子組換え生物等規制法について・Part15 ===
    〜〜〜 計画書の書き方について 〜〜〜
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 今回は、熊本大学において機関承認実験を行う際に必要な『遺伝子組換え生物等第二種使用等計画書』の書き方について、いくつかのポイントを説明します。
 『遺伝子組換え生物等第二種使用等計画書』様式およびその『記入方法』は、下記ホームページからダウンロードできます。
http://www.medphas.kumamoto-u.ac.jp/koho/center/index.html

(1)LMOについて〜例1〜
 計画書を作成する際に、最初に考えなければならないのは対象になるLMO(遺伝子組換え生物)は何かということです。例えば、ベクターAを用いてヒトB遺伝子のトランスジェニックマウスを作製する場合、トランスジーンを作製する為に使用する大腸菌と、作製したトランスジェニックマウスが対象になります。このLMOを想定して、まず「遺伝子組換え生物等及び拡散防止措置の一覧表」を書きます。横線を引いて上下二つのパートに分けて下さい。

 パート1(備考:大腸菌を用いたトランスジーンの作製)
核酸供与体;ヒト(クラス1)
供与核酸;B遺伝子 相補DNA
ベクター;A
宿主等;大腸菌(B1-EK1)
保有動植物等;該当しない
拡散防止措置の区分;P1レベル
になります。

 パート2(トランスジェニックマウス作製及び解析)
核酸供与体;ヒト(クラス1)
供与核酸;B遺伝子 相補DNA
ベクター;A
宿主等;マウス(クラス1)
保有動植物等;該当しない
拡散防止措置の区分;P1Aレベル
です。

(2)LMOについて〜例2〜
 もう一つ別の例を考えてみます。マウスレトロウイルスベクターを用いて、ヒトC遺伝子をマウス培養細胞株Dで発現させる場合のLMOは、やはりコンストラクションに用いる大腸菌と、遺伝子導入に用いる組換えレトロウイルスが対象になります。ここで、マウス培養細胞株Dは規制法上は生物とみなされませんので、LMOではありません。また、組換えレトロウイルスを産生する際にパッケージング細胞Eを使用しますので、そのステップも分けた方が判り易くなります。そこで、「一覧表」を書く際に、横線を2本引いて3つのパートに分けます。

 パート1(備考:大腸菌を用いた組換えウイルスベクターの作製)
核酸供与体;ヒト(クラス1)
供与核酸;C遺伝子 相補DNA
ベクター;レトロウイルスベクタープラスミド
宿主等;大腸菌(B1-EK1)
保有動植物等;該当しない
拡散防止措置の区分;P1レベル

 パート2(備考:組換えウイルス粒子産生)
核酸供与体;ヒト(クラス1)
供与核酸;C遺伝子 相補DNA
ベクター;レトロウイルスベクタープラスミド
宿主等;マウスレトロウイルス(非自律増殖型、二次感染粒子を生じない) (クラ ス2)
保有動植物等;ヒト培養細胞株E(パッケージング細胞)
拡散防止措置の区分;P2レベル

 パート3(備考:培養細胞株への組換えウイルス感染)
核酸供与体;ヒト(クラス1)
供与核酸;C遺伝子 相補DNA
ベクター;該当しない
宿主等;上記組換えレトロウイルス(クラス2)
保有動植物等;マウス培養細胞株D
拡散防止措置の区分;P2レベル

(3)実験の区分と拡散防止措置の区分
 計画書の1枚目に、実験の区分と拡散防止措置の区分をチェックするところがあります。上記例1の場合、実験の区分については「微生物使用実験」と「動物使用実験」および「動物作成実験」にチェックを入れます。また、拡散防止措置の区分については、「P1」と「P1A」にチェックを入れます。例2の場合は「微生物使用実 験」、「P1」および「P2」にチェックを入れます。
 例1の実験の場合は実際にトランスジェニックマウスを作製する訳ですが、既に作製されている遺伝子改変マウスを飼育するだけでも「動物作成実験」になります。これに対して、遺伝子組換えウイルスを正常なマウスに感染させる実験などを「動物接種実験」と呼びます。「動物使用実験」という言葉は、「動物作成実験」と「動物接種実験」の総称ですのでご注意ください。

(4)本文の記述
 「一覧表」が先に出来ていると、本文は書きやすいと思います。紛らわしいのは「宿主等の特性」、「遺伝子組換え生物等の特性」および「遺伝子組換え生物等を保有している動物、植物または細胞等の特性」だと思います。『記入方法』にかなり詳しく説明を付けてありますので、必ず読んで下さい。
 上記例1の場合、「宿主等の特性」には大腸菌とマウスについて、「遺伝子組換え生物等の特性」には作製した組換え大腸菌とトランスジェニックマウスについて、記述します。「遺伝子組換え生物等を保有している動物、植物または細胞等の特性」は該当しません。
 上記例2の場合、「宿主等の特性」には大腸菌とマウスレトロウイルスについて、「遺伝子組換え生物等の特性」には作製した組換え大腸菌と組換えレトロウイルスについて、「遺伝子組換え生物等を保有している動物、植物または細胞等の特性」にはヒト培養細胞株Eとマウス培養細胞株Dについて、記述します。

(5)施設等の概要
 これも『記入方法』に書いてありますが、P1レベルおよびP1Aレベルの場合は、実験場所の名称のみを記載し、図面等を省略することが出来ます。P2レベル、P3レベル、P2AレベルおよびP3Aレベルの場合は、実験室の見取り図を掲載し、安全キャビネットとオートクレーブの位置を明記して下さい。

(6)個人チェック欄
 計画書が完成したら、1ページ目の個人チェック欄を確認して下さい。上記例1の場合は、マウスを扱いますので動物実験委員会への申請書提出年月日を記入する必要があります。もちろん、この『遺伝子組換え生物等第二種使用等計画書』の提出と同時進行でも構いません。倫理委員会への申請書提出は不要です。例2の場合は、二つ とも不要になります。