GTC On Line News No.535

2004年 7月 26日
=== 遺伝子組換え生物等規制法について・Part11 ===
    〜〜〜 ワクシニアウイルスの取扱い 〜〜〜
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 これまで、規制法について・Part8, Part9, Part10において、バキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスの取扱いについて説明しました。今回は、ワクシニアウイルスベクターを用いた実験についてご紹介します。

 ワクシニアウイルス(vaccinia virus)は、かって痘そう(天然痘)ワクチンとして用いられたウイルスで、ポックスウイルス科に分類され、二本鎖DNAをゲノムとして持っています。最大の粒子を持つウイルスであり、粒子中には、転写複製に関与する各種の酵素を持ち、またゲノム上にもこれらタンパク質の多くをコードする遺伝子がそろっています。組換え生ワクチンのベクターにワクシニアウイルスを利用する研究も盛んに行われています。この組換えワクシニアウイルスワクチンのメリットは、(a)多価ワクチンが開発できる、(b)凍結乾燥しても安定で保存しやすい、(c)生ワクチンであるため高い抗原性を維持できる、(d)液性免疫だけでなく細胞性免疫も誘導できる、(e)投与法が簡単、などです。

 さて、基礎研究の現場でも、ワクシニアウイルスを利用することがあります。次のQ&Aをご覧下さい。
 <Question>*****
 HIVの遺伝子断片(HIVの個々の蛋白質をコードする)を組み込んだワクシニアウイルスを、in vitroで細胞株に感染させて、CTLのターゲットとして用いる予定です。この組換えワクシニアウイルスは、in vitroである種の細胞に感染させてウイルス粒子を調製します。この実験では、HIVの一部のORF(gag-pol, env, あるいはnef、いずれも同定済み核酸)しか組み込んでいません。また、HIVとしての伝達性はありませんが、宿主のワクシニアウイルスの複製能は保持されています。ヒトへの感染能も保持しています。この実験の申請をどのように扱うべきなのか、ご意見をいただけたら幸いです。

<Answer>*******************************************************
 このケースは、HIVの一部のタンパク質を産生している組換えワクシニアウイルスですので、HIVが核酸供与体に、ワクシニアウイルスが宿主になります。区分としては、HIVが「クラス3」、ワクシニアウイルスが「クラス2」ですので、基本的にはP3レベルの拡散防止措置が必要です。ここで問題になるのは、大臣確認実験になるかどうかです。
 「研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令」(平成16年文部科学省・環境省令第1号)の別表第一(第 四条関係)に記載されている

 [第一号へ] 自立的な増殖力及び感染力を保持したウイルス又はウイロイド(文部科学大臣が定めるものを除く。)である遺伝子組換え生物等であって、その使用等を通じて増殖するもの

に該当するかどうかが問題になります。規制法について・Part8でも紹介した「平成16年文部科学省告示第7号」の別表第3(第4条関係)には、

 1 Vaccinia virus以外のウイルスのワクチン株

という記載があります。つまり、Vaccinia virus以外のウイルスのワクチン株に関しては[第一号へ]の適用から除外されるのですが、Vaccinia virusについてはこの例外措置が適用されません。従って、このケースでは大臣確認が必要です。

 ここでまた質問です。冒頭で書いた『組換えワクシニアウイルスワクチン』の開発 ・研究は、第2種使用になるのでしょうか? それとも医薬品扱いとなり、規制法の対象にはならないのでしょうか? 文部科学省に問いあわせたところ、次の様な回答をいただきました。
(1)上記告示第7号別表第3に記載されている通り、Vaccinia virus以外のウイルスのワクチン株等は、大臣確認の適用から除外されます。ただし、ここでいうワクチン株とは厚生労働省(人を対象としたもの)あるいは農水省(ヒト以外の動物等を対象としたもの)で「ワクチン株」として認定されているものを指します。現在のところ、日本には組換え生ワクチンとして認められているものはありません。もし認められた場合には、それらは産業利用となり厚労省あるいは農水省の担当になります。
(2)一方、ワクチン効果のある組換えウイルスの開発(対象がヒトであろうと動物であろうと)は文科省担当の二種使用に該当し、大臣確認実験になります。