アクティブボード・2018年 1月
     ・・・・・2018年 1月 5日作成・・・・・
研究発表を行った学会;
   日本薬学会九州支部大会
   2017年11月26日(熊本)
タイトル;2つの転写因子LRFとBCL11Aはそれぞれ独自の機構により胎児型ヘモグロビンの発現を抑制する.
発表者;増田 豪 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 微生物薬学分野)
要旨;
 鎌状赤血球症は成人型βグロビンの遺伝子変異により発症する。根本的な治療は造血幹細胞移植のみであり、安価な治療法の開発や出生前診断による予防が強く求められている。ヒトのβグロビンには胚型、胎児型、成人型がある。胎児期には胎児型が発現し、出生後には成人型の量が上昇し、胎児型グロビンの発現量がほぼゼロになる。鎌状赤血球症患者の中でも、胎児型グロビンのプロモーター領域に変異をもつと、出生後でも軽度の胎児型βグロビンの上昇をきたし、鎌状赤血球症の症状が軽減することが知られている。効率よく安全に胎児型グロビンの量を増加させる薬剤が開発できれば本疾患につながる。そのためには、出生後に胎児型βグロビンがどのように抑制されるのかを理解する必要がある。転写抑制因子LRFをノックアウトした成人マウス赤芽球において、胚型グロビンの発現上昇が認められた。マウス胚型βグロビンはヒトの胎児型βグロビンのオルソログである。その後、ヒトグロビン遺伝子座を導入されたLRFノックアウトマウス赤芽球、ヒト造血幹前駆細胞から分化誘導されたLRFノックダウン赤芽球およびLRFノックアウトヒト赤芽球細胞株においても、胎児型βグロビンの発現上昇と胎児型ヘモグロビン量の上昇が認められた。その後、LRFの胎児型グロビン抑制機構をChIP-Seq、ATAC-SeqおよびYeast two Hybridを用いたところ、LRFは胎児型グロビン遺伝子に結合することでヘテロクロマチン構造を形成させ、その発現を抑制していた。また、LRFはNuRD複合体と相互作用し機能していた。興味深いことに、LRFと転写因子BCL11Aを両方ノックアウトすることで、胎児型βグロビンの発現抑制がほぼ完全に解除された。このことから、LRFとBCL11Aの2つの転写因子が、出生後において胎児型グロビンの発現を抑制していることを明らかにした。