アクティブボード・2017年11月
     ・・・・・2017年11月 1日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
   日本ケミカルバイオロジー学会 第12回年会
   2017年 6月 7日〜 9日(札幌)
タイトル;トランスサイレチン単量体の構造安定化を標的とする創薬スクリーニング系の構築.
発表者;河野 慎吾 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部(薬学系)生命分析化学分野)
要旨;
 家族性アミロイドポリニューロパチー (FAP) とは、血清タンパク質であるトランスサイレチン (TTR) が遺伝子変異によりアミロイド線維を形成し、臓器不全を起こす遺伝性疾患である。TTRのアミロイド形成には「四量体から単量体への解離」と「単量体の変性」が必要である。前者はアミロイド形成反応の律速段階であるため創薬標的として研究が進んでいるが、後者に関しては単量体の変性に伴う構造変化の詳細が明らかになっていない。そこで、我々は単量体の変性過程及びその構造変化を明らかにし、得られた構造情報を基盤にして単量体の変性過程を標的とした新規治療薬の開発を目指している。
 本研究では単量体の変性に伴う構造変化を明らかにするために、サブユニット界面に変異を導入し、四量体化を阻害したTTR (単量体型TTR : M-TTR) およびFAP発症変異を導入したM-TTRを作製し、詳細な解析を行った。その結果、TTR単量体には安定性の異なる3つの構造状態が存在し、それらの構造体は動的平衡状態にあるという新しい知見を得ることに成功した。したがって、TTR単量体をより安定性の高い構造状態へと変化させることができれば、TTR単量体の変性を抑制し、アミロイド形成阻害に寄与すると考えた。そこで、我々はTTR単量体を安定化する化合物を探索するために示差走査型蛍光定量法 (DSF) を用いた簡便な創薬スクリーニング系の構築を試みた。ProteoStat® Thermal shift stability assay kitを用いて、各種M-TTR (FAP変異を導入したM-TTRおよび単量体構造安定化変異を導入したM-TTR) の凝集開始温度 (Tagg) を測定したところ、TTR単量体の構造安定性の増加に相関してTaggが上昇することを確認した。今後は本スクリーニング系を用いてTTR単量体を安定化する化合物の探索を行い、ヒット化合物についてはTTRとの複合体の構造解析により、化合物の結合部位や結合によるTTRの構造変化を明らかにし、単量体の変性過程の解明や新規FAP治療薬の開発へと繋げたいと考えている。