アクティブボード・2017年11月
・・・・・2017年11月 1日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
日本ケミカルバイオロジー学会 第12回年会
2017年 6月 7日〜 9日(札幌)
タイトル;一本鎖抗体を用いたAGEs修飾タンパク質の分離・濃縮法の開発.
発表者;山内 聡一郎 氏
(熊本大学 大学院生命科学研究部(薬学系)生命分析化学分野)
要旨;
質量分析法を用いて血液などの生体試料から目的タンパク質を検出するためには、IgG抗体-プロテインA/Gビーズのアフィニティーシステムを用いた免疫沈降による分離・濃縮法が考えられる。しかしながら、このIgG抗体とプロテインA/Gビーズを用いる方法では生体内に多く存在するアルブミンや免疫グロブリンのビーズへの結合が生じるため、これらタンパク質を除去する前処理が必要となり、特異性および汎用性の点で網羅的解析への利用は困難である。したがって、IgG抗体-プロテインA/Gビーズの代替となる新規アフィニティーシステムの構築は、上記の問題点を克服するとともにプロテオミクス研究における新たな戦略となり得ると考えられる。まず、我々はカイコのパターン認識受容体の一つであるβGRPとβ-1,3-gulcanとの特異的結合に着目した。βGRPの基質認識に重要な構造ドメイン領域(GRPタグ)はβ-1,3-gulcan(カードランビーズ)に対して強固な結合親和性を示し、他のアフィニティーシステムに比べ強力な洗浄操作が可能である。ゆえに、GRPタグとカードランビーズを用いた新たなアフィニティーシステムは非特異的吸着を抑制し、目的タンパク質を高純度に濃縮することが可能であると考えられた。
そこで、GRP-カードランビーズのアフィニティーシステムを用いて終末糖化産物(AGEs)の一種であるGA-pyridine修飾タンパク質の血清試料からの分離・濃縮を試みた。AGEsは糖とタンパク質の非酵素的反応により生じる化合物の総称であり、生体内でのこれらの加速度的な生成・蓄積は糖尿病合併症や動脈硬化症等の発症及び進展の要因と考えられている。本研究室で獲得したGA-pyridineに特異的な一本鎖抗体(73MuL9scFv)にGRPタグを融合した抗体(73MuL9scFv-GRP)とカードランビーズを用いて免疫沈降を行った結果、アルブミンや免疫グロブリンの除去等の前処理を行わない血清試料を用いた場合においても、GA-pyridine修飾タンパク質を特異的に分離・濃縮することに成功した。さらに、質量分析により得られた濃縮液から数十種類のタンパク質が検出され、今後これらタンパク質の更なる解析を行うことでAGEs関連疾患に有用なバイオマーカーの探索や疾患の発症メカニズムの解明、新規治療薬の開発などへの進展が期待される。