アクティブボード・2017年7月
・・・・・2017年 7月 4日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
第39回日本分子生物学会年会
2016年11月30日~12月2日(横浜市)
タイトル;環状オリゴ糖による受精能獲得誘導効果を利用した新規不妊治療法の開発.
発表者;竹本 賢司 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野)
共同研究者;中尾聡宏¹,吉本英高¹,入江徹美²,竹尾透¹,中潟直己¹
1)熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野
2)熊本大学 生命科学研究部 薬剤情報分析学分野
要旨;
不妊症とは、一年間の不妊期間あるいは女性の年齢が35歳以上においては6カ月間の不妊期間があるものと定義されている。不妊症と診断された場合は、タイミング法、排卵誘発法、人工授精法、そして体外受精法等の生殖補助医療が段階的に適応される。生殖補助医療において受精能を改善する方法は、未だ開発されておらず、更なる技術改良が必要とされている。これまでに私たちは、低受精能を示す精子に対して環状マルゴオリゴ糖であるメチル-β-シクロデキストリン(MBCD)が受精機能を改善することを明らかにしている。しかしながら、MBCDが有する強力な受精能獲得誘導作用(シクロデキストリン誘導性受精能獲得効果)に関する詳細なメカニズムやMBCDの不妊治療への応用に関する基礎情報が不足しており、さらなる検討が必要である。そこで本研究では、MBCDが精子の受精能、運動能、先体反応誘起率、精子生体膜脂質の組成に及ぼす影響を検討し、シクロデキストリン誘導性受精能獲得効果に関する基礎情報の収集を行った。MBCDは、0.5 mM以上において体外受精における受精率を上昇させた。また、体外受精における受精率は、MBCD処理時間が30分で上昇し、60分以降で平衡に達した。精子の運動機能解析により、MBCDが精子頭部の振動数を増加させた。受精能獲得過程に生じる精子頭部における原形質膜の崩壊(先体反応)を評価した結果、0.5 mM以上のMBCDは、先体反応誘起率が上昇させた。またMBCDは、生体膜脂質と相互作用し、0.5 mM以上でコレステロールおよびリン脂質の漏出を促進した。以上の結果より、シクロデキストリン誘導性受精能獲得効果は、精子生体膜脂質の変化が引き金となり、精子運動能の活性化や先体反応の誘導に起因することが示唆された。今後、新規不妊治療法の開発に向けて、MBCDによる先体反応や運動能の活性化を仲介する分子機構の解明やシクロデキストリン誘導性受精能獲得効果の生殖工学技術への応用を進めていく予定である。