アクティブボード・2017年6月
     ・・・・・2017年 6月 5日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
   第4回がんと代謝研究会
   2016年7月8日(鹿児島)
タイトル;ヒストン脱メチル化酵素LSD1の白血病代謝における役割.
発表者;興梠 健作 氏
   (熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野)
要旨;
 白血病は長期生存例が増加している一方で、従来の治療法では改善しない型や再発例は予後不良であり、これらの病態解明は今後の白血病治療の成績向上のために重要である。近年、白血病にDNAやヒストンの化学修飾に影響を与える遺伝子の変異も報告され、エピジェネティックな変化を介して白血病を引き起こす病態が明らかになってきている。リジン特異的ヒストン脱メチル化酵素1 (lysine-specific demethylase 1: LSD1)はFADを補酵素としてヒストンH3や癌抑制遺伝子p53、低酸素応答因子HIF1αなどのリジン残基を脱メチル化し、遺伝子発現制御に関わる転写・エピゲノム制御因子である。AMLに代表される多くの血液疾患でLSD1が正常の血球系細胞と比較して高発現しており、LSD1が高発現しているAML細胞にLSD1阻害剤を使用すると骨髄性白血病細胞の自己複製能が抑制され分化が誘導されるなど抗白血病効果を示し、新たな治療の標的として注目を浴びている。
 これまで我々はLSD1が脂肪細胞においてミトコンドリア代謝を始めとするエネルギー消費に関わる代謝遺伝子の発現をエピジェネティックな機序で抑制することを報告し、肝がん細胞においてもLSD1がミトコンドリア呼吸を抑制し、更に解糖系の亢進にも寄与することを見いだした。本研究ではLSD1が白血病細胞代謝に固有の役割を果たすことを発見した。本研究の成果を踏まえてこれまで予後不良とされてきた患者に対しても新たな治療法を提供できる可能性がある。