アクティブボード・2017年6月
・・・・・2017年 6月 2日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
第11回日本エピジェネティクス研究会年会
2017年5月22日〜23日(東京)
タイトル;SETD8/PR-Set7メチル基転移酵素は細胞老化に関わる代謝リモデリングを抑制する.
発表者;田中 宏 氏
(熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野)
要旨;
細胞老化は、ストレスを受けた細胞が自律的に増殖を停止させる細胞応答であり、癌の抑制、胚の発生、ならびに個体の老化において重要な役割を果たしている。老化した細胞は、大きく扁平状の形態を示すほか、細胞内の代謝状態、ならびに核のエピゲノムおよび遺伝子発現が、増殖中の細胞と比べて大きく変化する。
我々は、核のエピゲノム変化が細胞老化に重要な役割を果たしていると考え、ヒト繊維芽細胞を用いて細胞老化に関わるエピジェネティック因子を探索した。その結果、SETD8/PR-Set7メチル基転移酵素が細胞老化の過程で顕著に減少することを見出した。同様に、RNAiあるいは阻害剤によるSETD8の阻害は、増殖中の線維芽細胞に対して細胞老化を誘導した。SETD8はヒストンH4リジン20をモノメチル化(H4K20me1)し、遺伝子発現を負に制御することが知られている。そこで、マイクロアレイによる遺伝子発現解析などを用いて、SETD8のノックダウンで発現が上昇する遺伝子を探索したところ、リボソームタンパク質、リボソームRNAならびにサイクリン依存性キナーゼ阻害因子p16INK4Aの発現上昇が認められた。これらの遺伝子の発現上昇は、リボソーム生合成の活性化による細胞内タンパク質合成の増加、ならびにp16-RB経路によるミトコンドリア好気呼吸の活性化を引き起こし、老化した細胞に特徴的な代謝状態を誘導することが示唆された。
これらの結果から、SETD8はH4K20me1を介してターゲット遺伝子の発現を抑制することで、細胞老化ならびに細胞老化に付随する代謝リモデリングを防止する役割を果たしていることが示唆された。