アクティブボード・2017年5月
・・・・・2017年 5月 6日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
第39回 日本分子生物学会年会
2016年11月30日〜12月 2日(横浜市)
タイトル;Co-PCB同族体識別素子の開発を目的とした一本鎖抗体のX線結晶構造解析.
発表者;大原 隼也 氏
(熊本大学 薬学教育部 創薬・生命薬科学科専攻 生命分析科学分野)
要旨;
ダイオキシン類は環境中に広く汚染が確認され, ヒトへの影響が懸念されている。ダイオキシン類は置換塩素の数と位置の違いにより毒性の強さが異なっているが物理化学的性質は類似しているため、異性体それぞれを識別して検出する方法の開発が望まれている。ダイオキシン誘導体であるCo-PCBsの中でも毒性の強いPCB#126とPCB#169を特異的に認識するモノクローナル抗体PCB4が樹立され、一本鎖抗体であるPCB4scFvが作製された。PCB4scFvの検出素子への応用を目指してX線結晶構造解析による抗原認識機構の解明を試みた。
今回、PCB4scFvからファージディスプレイ法により得られた高収率変異クローンに対して、DSC(Differential Scanning Calorimetry)やSAXS(Small Angle X-ray Scattering)による物理化学的な評価を行うことで結晶化に適したコンパクトなクローンの選別を行った。その結果得られたクローンであるL3-72を用いて結晶化を行ったところ抗原結合状態および非結合状態の双方について結晶を得ることに成功した。その結果、この抗体の結合ポケットは狭く、抗原が入り込む上でビフェニル構造を形成する2つの芳香環の間の回転角に自由度が必要であることが示唆された。そのため、PCB4scFvはCo-PCBsに対する選択性が高い。また、PCB4scFvの抗原認識には置換塩素原子の数と位置を認識して特異性に寄与するハロゲン結合、ビフェニル構造そのものを認識するπ-π相互作用およびCH-π相互作用が関わっていることが示唆された。本研究により、結晶化に適した一本鎖抗体を選別する際のDSCやSAXSによる測定の有用性が示唆された。また、PCB4scFvのPCB#126およびPCB#169に対して高い特異性を示すメカニズムが明らかになった。