アクティブボード・2017年3月
     ・・・・・2017年 3月 2日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第39回日本分子生物学会年会
 2016年11月30日〜12月 2日(横浜)
タイトル;亜鉛結合性低分子化合物によるTRAF6および下流シグナル経路に対する影響.
発表者;古賀 涼子 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 生体機能分子合成学分野)
要旨;
 TRAF6はIL-1誘導NF-κBやMAPKシグナル経路の上流で機能する蛋白質である。近年、癌におけるTRAF6の過剰発現や悪性化への関与が報告されていることから、重要な創薬標的であると考えられる。
 第37回本年会において、亜鉛結合性化合物SN-1のプロドラッグ体(SN-2)存在下でTRAF6ポリユビキチン化が抑制され、NF-κB活性化が著しく阻害されることを報告した。そのメカニズムについては、SN-2が細胞内で還元されてSN-1となり、TRAF6の亜鉛部位との作用によってE3リガーゼ活性およびその構造に影響を与えているのではないかと推測した。本研究では、TRAF6 とSN-1の相互作用を確認し、さらにMAPK経路への影響について検討を行った。まずTRAF6とSN-1の結合を調べるために、293T細胞にTRAF6発現ベクターを導入し、得られた破砕溶液とBiotin-SN-1(SN-1にビオチンを結合させた化合物)をアビジン結合ビーズでpull downした。サンプルをウエスタンブロッティングに供試したところ、TRAF6とSN-1の結合が示された。一方でユビキチン化したTRAF6とは結合しなかった。MAPK経路に対するSN-2の影響についてIL-1α刺激HeLa S3細胞を用いてウエスタンブロッティングで観察すると、p38はIL-1非依存的にリン酸化された。またレポーター遺伝子を用いた実験ではJNK下流に位置する転写因子AP-1がSN-2によってIL-1非依存的に活性化された。p38およびJNK上流に位置し、シグナル伝達に重要であるとされるTRAF6-MEKK3-TAK1複合体についてSN-2存在下での様子を調べるために、各発現ベクターを293T細胞へ共導入し、免疫沈降・ウエスタンブロッティングを行った。おもしろいことにSN-2存在下でTRAF6-MEKK3の結合が劇的に強まることが分かった。一方でTRAF6-TAK1の結合は変化しなかった。以上の結果より、SN-1がTRAF6亜鉛部位へ結合することによって蛋白質構造が変化し、IL-1非依存的にMAPK経路を惹起させるようなシグナルが生じたのではないかと考えられた。詳細について現在検討中である。