アクティブボード・2017年2月
     ・・・・・2017年 2月 3日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第89回日本生化学会大会
   2016年 9月25日〜27日(仙台)
タイトル;ゼブラフィッシュ初期発生におけるプロスタグランジンI2受容体IPの役割.
発表者;岸本 幸一朗 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 薬学生化学分野)
要旨;
【背景・目的】
 プロスタグランジン (PG) I2はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ (COX) を律速酵素として産生される脂質メディエーターの一種であり、特異的受容体IPを介して多彩な生理作用を発揮する。Non steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) はCOXを阻害することで、PG類の産生を抑え、解熱・鎮痛といった治療効果を発揮するが、一方で妊婦によるNSAIDsの服用は胎児毒性を引き起こす。したがって、PG類は初期発生に重要な役割を担う可能性が示唆されるが、初期発生におけるPGI2及びIP受容体の役割は未だ十分には明らかになっていない。そこで我々は、発生研究の有用なモデル生物であるゼブラフィッシュを用いて、初期発生におけるPGI2及びIP受容体の機能の解明を行った。
【結果・考察】
 初期発生におけるIP受容体の役割を調べるために、まずin situ hybridization法によりゼブラフィッシュの初期発生期におけるIP受容体mRNA発現部位を調べた。その結果、受精後24時間においてIP受容体に特異的なシグナルが検出され、その発現部位は近位尿細管マーカーであるslc20a1a、trpm7の発現部位とよく一致した。さらに、このIP受容体のシグナルは腎臓の形成時期である受精後18時間から48時間において継続的に検出された。そこで、IP受容体が腎臓形成に寄与する可能性を想定し、受精後16時間から48時間にかけてNSAIDsの一種であるインドメタシンを処理して、PG類の合成を阻害したところ、受精後5日において浮腫が生じ、死亡個体数が増加した。IP受容体アゴニストであるアイロプロストの共処理はこのインドメタシンによる浮腫を軽減した。浮腫は腎臓形成・機能不全で観察される表現型であることから、PGI2-IP受容体シグナルが腎臓形成に重要な役割を担う可能性が示唆された。これまでに、PGI2合成酵素欠損マウスにおいて腎臓形成異常が報告されていることから (Yokoyama et al., Circulation 106: 2397, 2002)、本研究で見いだした腎臓形成におけるPGI2-IP受容体の役割は、種を超えて保存されている可能性が考えられた。