アクティブボード・2016年11月
     ・・・・・2016年11月 3日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第89回日本生化学会
  2016年9月25日〜27日(仙台)

タイトル;分子シャペロンVCP/p97のTDP-43及びαシヌクレインアミロイド線維への作用機構.
発表者;野井 健太郎 氏
   (熊本大学 発生医学研究所 分子細胞制御分野)
要旨;
 TAR DNA binding protein-43 (TDP-43)は、RNAの安定化や選択的スプライシング、転写調節などに関与している不均一核内リボ核酸タンパク質(hnRNP)の一種である。近年、神経変性疾患の一種である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD)の患者の脳内で観察されるユビキチン陽性封入体の主要な構成因子の1つが、TDP-43であることが報告された。
 ALSやFTLDで観察されるユビキチン陽性封入体は、TDP-43の変異、断片化、ユビキチン化、リン酸化、または分子シャペロンの一種でAAA (ATPases associated with diverse cellular activites)ファミリータンパク質のVCP/p97(一般名はp97でヒトなど哺乳類ではVCPと呼ばれる)の変異などにより形成が促進される事が報告された。ALSやFTLDにおいてTDP-43の封入体が形成され、神経変性疾患に特徴的なアミロイド線維が認められるとの報告が多数ある。しかし、VCP/p97とTDP-43の関連については、未だ不明な点が多く、特に分子メカニズムについての知見は乏しい。
 我々は、VCP/p97がTDP-43アミロイド線維と直接相互作用し、さらにATP添加で相互作用が緩和することを明らかにした。結合特異性を調べた結果、TDP-43アミロイド線維形成初期の細いアミロイド線維にVCP/p97が結合することが明らかとなった。VCP/p97は、基質タンパク質やアダプタータンパク質が結合するNドメイン、タンデムに並んだ2つのATPaseドメイン (D1とD2)から成り、ALSやFTLDのサブタイプの1つIBMPFDを発症するVCP/p97変異部位は、NドメインとD1ドメインの間に集中している。ALS、IBMPFDに関与する4種類の変異体を用いて測定を行った結果、TDP-43アミロイド線維との相互作用が大幅に低下することを見出した。また、高速原子間力顕微鏡(AFM)観察により、野生型VCP/p97はTDP-43のアモルファスな凝集体ではなく、アミロイド線維に特異的に結合することを明らかにした。さらに、VCP/p97が活性は低いものの、TDP-43アミロイド線維を脱凝集することも明らかにした。
 VCP/p97は、TDP-43以外の神経変性疾患に関与する原因タンパク質のアミロイド線維(アミロイドβ、αシヌクレイン)ともATP非存在下で相互作用し、ATP添加でαシヌクレインアミロイド線維との相互作用が緩和することを明らかにした。一方、ハンチンチン、タウタンパク質のアミロイド線維には、VCP/p97は結合しないことも明らかにした。現在、VCP/p97によるTDP-43、αシヌクレインのアミロイド線維に対する脱凝集活性の測定および高速AFM観察を行っている。また、発症要因の1つであるVCP/p97変異体の構造は、クライオ電子顕微鏡などの観察から野生型VCP/p97に比べ、Nドメインが迫り上げっており、VCP/p97分子の高さが約1.5倍高くなることが報告されており、高速AFM観察による検証を行っている。