アクティブボード・2016年10月
     ・・・・・2016年10月 5日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・平成28年度新学術領域研究「学術研究支援基盤形成[先端モデル動物支援プラットフォーム]」若手支援技術講習会
  2016年9月14日〜17日(蓼科、長野県)
タイトル;染色体特異的にクラスターを形成しているトラップ領域(CSCT13)の解析.
発表者;武田 伊世 氏
   (熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野)
要旨;
【目的】ヒトゲノムが解読され、その半分近くはLINEやトランスポゾン等の繰り返し配列であることが明らかとなった。これらの繰り返し配列はゲノム全体に広がっており、染色体特異性はない。当研究室では、遺伝子トラップ法を利用して得られたES細胞やマウスラインの情報をデータベースEGTCに公開している。EGTCに登録されているクローンの一つに、Ayu21-B145クローンがある。このクローンにおけるトラップされた未知の配列を用いてBLATサーチを行うと、13番染色体上に1.6 Mbpにわたって似た配列が集合つまりクラスターを形成していることを発見した。これをChromosome Specific Clustered Trap region、CSCTと名付け、13番染色体に特異的なものをCSCT13とした。CSCT13がどのような役割があるかは不明であり、本研究の目的はCSCT13の生体内における機能解析である。
【方法】本研究では、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9システム」を用いた。今回、通常の二本鎖切断(DSB)活性をもつ野生型Cas9(pX330)と、ニックを入れる(nickase)活性を持つCas9 D10A(pX335)の2種類のCas9を使用した。野生型Cas9では両アームより内側にDSB、Cas9 D10Aでは両アーム内にニックを加えるようにsgRNAを設定した。クラスター領域全体を除去し、CSCT13を欠損したES細胞からキメラマウスを作製・マウスラインを樹立し、表現型解析を行った。
【成績】ホモ接合体マウスにおいて外観には一見してわかる異常は見られず、体重、血液生化学検査においても野生型と比較してホモ接合体に異常は見られなかった。しかし、CSCT13内の遺伝子は精巣、胎盤で発現しており、ホモ接合体同士の交配で得られる産仔数は他の交配と比較して減少していた。また、減数分裂時の染色体相同組換えへの影響評価を行ったところ、1Mbpあたりの組換え率は、CSCT13を欠損すると、CSCT13を含む領域では減少した。興味深いことに、CSCT13を欠損すると、周辺の領域の組換え効率は両方とも2倍以上の上昇を示した。
【結論】これらの結果より、CSCT13は染色体組換えが起きやすい領域であり、周りの領域の組換えにも影響していたことがわかった。遺伝子内領域における組換えや転座を防ぐために、CSCT13が周囲の組換えを抑制することにより、安全に減数分裂を行っていると考えられる。CSCT13は染色体分離が原因の疾患や組換えのメカニズムに関与している可能性が示唆された。また、ホモ接合体同士の交配における平均産仔数が有意に減少している結果の原因の1つとして、染色体組換え異常が可能性として挙げられる。この抑制機構を解明するためにも、CSCT13のDNA配列自体が関わっているのか、そこから転写される転写産物等が関わっているのか検討していく必要がある。今回行った実験は、全く機能がわからなかった新しい領域の機能解析の基盤となり、他の領域の機能解析につながるだろう。また、それらの領域は、疾患の原因である可能性もあり、新たな治療戦略も期待される。