アクティブボード・2016年10月
     ・・・・・2016年10月 5日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・平成28年度新学術領域研究「学術研究支援基盤形成[先端モデル動物支援プラットフォーム]」若手支援技術講習会
  2016年9月14日〜17日(蓼科、長野県)
タイトル;内在性遺伝子座でlincRNA-p21を過剰に発現させたマウスは糖尿病を呈する.
発表者;中原 舞 氏
   (熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野)
要旨;
 lincRNAは、近年機能性が期待されている非コードRNAの一種である。中でもlincRNA-p21は、がん抑制遺伝子p53により発現が誘導されることで注目されている遺伝子で、これまでに転写、翻訳、リプログラミング、ワーブルグ効果といった多様な事象で興味深い機能報告がなされている。しかし、これらは培養細胞を用いた研究であり、生体内での機能は明らかとなっていない。そこで、生体内機能を解明すべくlincRNA-p21遺伝子トラップマウスの解析を行ったが表現型は現れなかった。ところが、我々の可変型遺伝子トラップシステム(ゲノム上のトラップベクターを任意の遺伝子に置換可能)を用い、lincRNA-p21遺伝子座において、このlincRNA-p21を過剰発現させるコンストラクトをノックインしたところ、生後15週齢において血糖値400mg/dLになり糖尿病を発症した。また面白いことに、糖尿病を発症するのは「内在性遺伝子座で」過剰発現させた場合のみで、別の遺伝子座で発現させても発症しない。このことから、「内在性遺伝子座で多量に作られること」が発症の鍵であり、周辺遺伝子あるいはゲノム領域に作用しているのではないかと示唆される。そこで周辺遺伝子の発現を調べてみると、隣接p21遺伝子の転写が亢進していた。p21は膵b細胞において細胞増殖を抑制することでインスリン分泌不足をもたらすことが知られており、我々のマウスでも同様の所見が観察されたことから、lincRNA-p21によるp21の転写亢進が糖尿病発症の引き金であると示唆される。現在、lincRNA-p21によるp21転写亢進機序の解析を進めている。この糖尿病マウスは発症時期が早く肥満を伴わない。これはヒトのMODY(家族性若年糖尿病)及びそのモデルであるAKITAマウスの症状に類似しているが、AKITAとは発症機序は異なり、また経過も緩やかであり、新たなモデルマウスとして有用だと考えている。本研究は、MODYの病因や病態の解明に役立つと期待される。