アクティブボード・2016年8月
     ・・・・・2016年 8月 2日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・日本がん免疫学会
 2016年7月27日〜29日(大阪)

タイトル;悪性腫瘍の肝転移モデル、肝原発腫瘍モデルに対するヒトiPS細胞由来IFN-β発現マクロファージを用いた免疫療法による抗腫瘍効果の検討.
発表者;匂坂 正孝 氏
   (熊本大学 医学部附属病院 小児外科・移植外科)
要旨;
【はじめに】
 肝原発腫瘍の進行例や悪性腫瘍の肝転移症例に対しては外科的切除術が適応となることは少なく、化学療法がその多くで実施されるが奏効率は現時点では決して高くなく、また患者全身状態から化学療法導入困難な症例も存在し、より良い治療法の開発が望まれる。
 我々の研究室ではこれまで、マウス腹膜播種モデルに対しiPS細胞由来IFN-β発現ミエロイド/マクロファージライン (iPS-cell-derived Myeloid/Macrophage Line expressing IFN-β, 以下iPS-ML/IFN-β) を用いた免疫療法を行い抗腫瘍効果について実証してきた。
 今回、マウス胃癌肝転移モデル、肝原発腫瘍モデルに対するiPS-ML/IFN-βの腹腔内投与療法による抗腫瘍効果について検討し、さらにiPS-ML/IFN-βの腹腔内投与による抗腫瘍効果発現のメカニズムについて解析を行った。
【結果】
 SCIDマウスで作成した転移性肝癌と肝原発腫瘍のXenograft modelに対し、iPS-ML/IFN-βの腹腔内投与により、腫瘍発育は有意に抑制され、肝原発腫瘍モデルでは有意に生存期間が延長した。
 肝転移モデルにおいて、マクロでは腹腔内投与後のiPS-ML/IFN-βは腫瘍接種部位である脾臓や転移巣を有する肝臓近傍に投与後24時間後以降に集積する傾向にあり、投与後48時間後に最も顕著であった。72時間後も腹腔内に生存するiPS-ML/IFN-βを認めた。
 組織解析では肝内の転移巣に浸潤するiPS-ML/IFN-βを認め、腫瘍未接種マウスでは肝内へのiPS-ML/IFN-βの侵入像は認めなかった。
 iPS-ML/IFN-βの腹腔内投与により肝臓内には 200 ng/ml を超える濃度でIFN-βが高発現し、少なくとも投与後72時間後まで活性を認めた。
【まとめ】
 iPS-ML/IFN-βの腹腔内投与療法が肝内腫瘍に対し抗腫瘍効果を発揮し、生命予後の改善につながることが示唆された。その作用メカニズムとしてiPS-MLが有する腫瘍部への浸潤能力が組織学的に証明され、産生するIFN-βが高濃度に肝内に発現していたことが直接的な抗腫瘍効果に寄与していたと考えられた。