アクティブボード・2016年8月
     ・・・・・2016年 8月 3日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第24回日本組織適合性学会大会  2015年9月10日〜12日(水戸)
・第44回日本免疫学会学術集会 2015年11月18日〜20日(札幌)

タイトル;大腸上皮細胞の小胞体ストレスがHLA-DR4トランスジェニックマウスのホモ接合体に発症する大腸炎の病因である.
発表者;入江 厚 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 免疫識別学分野)
要旨;
【目的】 我々が作製したHLA-DR4(HLA-DRA/HLA-DRB1*04:05)トランスジェニックマウス(DR4tgm)は、ヘテロ接合体は正常であるのに対し、ホモ接合体は重篤な大腸炎を発症して生後5~6月で死亡する。本研究はこのホモ接合体DR4tgm(ホモDR4tgm)の病態を解析し、HLA-DR4の発現との因果関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】 病理組織学的な解析により、ホモDR4tgmの大腸上皮細胞(colonic epithelial cell, CEC)には抗HLA-DR抗体の強い染色が認められ、粘液の産生も著減していた。このことから、HLA-DR4の過剰な発現がCECに小胞体ストレスを与え、大腸炎に至るのではないかと考えた。実際、小胞体ストレスマーカーであるBiPの抗体を用いたウエスタンブロットから、HLA-DR4と共にBiPの発現がホモDR4tgmCECに認められた。そこで小胞体ストレスを緩和する分子シャペロンのタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)をホモDR4tgmに飲水投与し、経口投与FITC-dextranの血中移行とCECのHLA-DR4の発現量を調べた。さらに大腸炎を発症するホモDR4tgmのCECが、粘膜固有層CD4+ T細胞を活性化するか否か、ELISPOT法により解析した。
【結果と考察】 TUDCAを飲水投与したホモDR4tgmでは、非投与群と比較してFITC-dextranの血中移行が有意に減少し、CECにおけるHLA-DR4の発現量も著減し、投与群の脱肛を呈する頻度は対照群と比較して低かった。したがってHLA-DR4の過剰発現によるCECの小胞体ストレスが、粘液産生を減少させ、腸管バリア機能を低下させることにより大腸炎発症に関与する可能性が示唆された。これと符合して、大腸炎未発症ホモDR4tgm CECではHLA-DR4の発現は見られず、またCIITAノックアウト背景のホモDR4tgmでは大腸炎の発症は認められなかった。いっぽうELISPOT解析から、ホモDR4tgm CECによる粘膜固有層CD4+ T細胞の活性化は見られず、これらの細胞の相互作用は炎症の直接の原因ではないと思われた。