アクティブボード・2016年7月
     ・・・・・2016年 7月 2日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第37回生体膜と薬物の相互作用シンポジウム
 2015年11月19日〜20日(熊本)

タイトル;COPD病態時の気道上皮及び肺組織に対するGLP-1 受容体作動薬処理の影響.
発表者;野原 寛文 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 遺伝子機能応用学分野)
要旨;
【目的】GLP-1 (glucagon-like peptide-1) は,食事に伴い小腸下部から分泌されるホルモン (インクレチン) の一種であり,その受容体作動薬は,2型糖尿病治療薬として現在臨床応用されている.GLP-1 受容体は肺組織にも高発現している事は以前から報告されていたが, その呼吸器での生理的作用は未だ不明とされていた. 本研究では,慢性の咳嗽, 喀痰, 労作時呼吸困難を主徴とする難治性の呼吸器疾患である慢性閉塞性肺疾患 (COPD) に着目し,本疾患の肺病態に対してGLP-1受容体作動薬がどのような影響を与えるかについて検討することで, 呼吸器でのGLP-1受容体の機能解明を試みた.
【方法】まず,粘液貯留・肺気腫・呼吸機能障害を呈するCOPD様モデル動物 (ENaC-Tgマウス) の肺病態に対するGLP-1受容体作動薬Exendin-4経気管投与 (10 pmol, 1日1回, 2週間) の影響について検討した. 次に,ENaC-Tgマウスの気道上皮を反映する閉塞性肺疾患モデル細胞株 (/ ENaC-16HBE14o-) に対するGLP-1受容体作動薬 (Exendin-4, Liraglutide) の影響を検討した.
【結果】ENaC-TgマウスにおけるExendin-4投与は,肺気腫症状の指標となる平均肺胞径MLIを有意に増大させ,さらに,肺組織中のMuc5ac,Muc4遺伝子の発現を有意に上昇させていたことから, Exendin-4投与は,ENaC-Tgマウスの粘液貯留状態を促進し,むしろ肺病態を悪化させることが示唆された.また,Exendin-4は,肺病態を呈さない正常マウスのMLIと呼吸機能 (0.1秒率) には,全く影響を与えなかったことから,Exendin-4による肺組織への影響は,病態時に特有のものであることが示唆された.さらに, / ENaC-16HBE14o- に対しての GLP-1 受容体作動薬 (Exendin-4, Liraglutide) 処理 (0.1 nM, 6-12 hrs) は粘液遺伝子MUC5AC遺伝子発現量を有意に上昇させ,この作用には,p38 MAPKの特異的リン酸化が関与していることが示唆された.
【考察】本研究は,気道上皮及び肺組織に対するGLP-1受容体作動薬処理が,粘液分泌促進作用を示すことを明らかにするものであり,閉塞性肺疾患モデルにおいては,その呼吸器病態を悪化させることを証明する初めての報告である.本研究は,近年,その存在が問題視されるようになったCOPD併発2型糖尿病患者のGLP-1受容体作動薬の摂取に警鐘を鳴らすものかもしれない.