アクティブボード・2016年4月
     ・・・・・2016年 4月 1日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第29回日本エイズ学会学術集会・総会
               2015年11月29日〜12月1日(東京)
・第38回日本分子生物学会年会 2015年12月1日〜4日(神戸)

タイトル;HIV-1 p2 peptideは電子伝達系複合体IV (CcO)に対してアロステリックモジュレーターとして機能する.
発表者;三隅 将吾 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 環境分子保健学分野)
要旨;
 ウイルス性因子p2 peptideがCcOを構成するMT-CO1にアロステリックに結合し、結果的にATP産生効率を上昇させることをはじめて明らかにした1。p2 peptideはミトコンドリア膜間スペースに露出したMT-CO1の構造的にポケット状になった部分に相互作用できることが示唆され、実際に細胞から取り出したミトコンドリアに直接p2 peptideを加えて、CcOの活性が上昇することを明らかにしている。これまでウシ心筋由来CcOの高次構造が日本人研究者によって解き明かされており、CcOは13個のサブニットによって構成されていることが明らかになっている (Science (1995) 269, 1069; (1996) 272, 1136)。その発見から20年後にCcOの正のアロステリックモジュレーターが発見されたことは興味深い。ヒトとウシ間でのMT-CO1の91.05%の相同性を考慮しながら、p2 peptideを介したCcOの遷移状態制御機構の解明に努めることで、HIVが宿主のエネルギー産生系を巧みに利用している戦略を絶つことによって、独創的な抗HIV治療戦略を提案できるのではないかと考えている。さらに、CcOのプロトンポンプ機構の解明は、生体エネルギー論分野で最も重要な研究領域の一つであることから、外的要因によってCcOの活性が調節されるという今回の知見をうまく活用できれば、いまだ十分には解明されていない電子伝達系の仕組みを明らかにできるかもしれない。本研究は、エネルギー産生に問題のある糖尿病や癌、神経変性疾患、難病指定されているミトコンドリア病といった疾患の治療法開発にも繋がる可能性があると信じたい。
1 Retrovirology (2015), 12:97 , DOI: 10.1186/s12977-015-0224-y