アクティブボード・2016年3月
     ・・・・・2016年 3月 1日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第74回日本癌学会学術総会 (2015年10月8日〜10日 名古屋市)
 第38回日本分子生物学会年会 (2015年12月1日〜4日 神戸市)
 第23回日本血管生物医学会学術集会 (2015年12月10日〜12日 神戸市)

タイトル;血管内皮細胞におけるERGおよびFLI1の発現低下がEndMTを誘導する.
発表者;永井  直 氏
   (熊本大学 生命資源研究・支援センター 表現型解析分野)
要旨;
 内皮間葉転換(EndMT)は、内皮細胞がその特異的形質を失い間葉系細胞に変化する現象で、生理的条件下においては発生期の心臓形成過程で見られる。一方で、腫瘍微小環境においても血管内皮細胞がEndMTを起こし、腫瘍関連線維芽細胞(CAF)に変化することによってがん病態の進行に関与する可能性が示唆されている。しかしながら、腫瘍内におけるEndMTの詳細な制御メカニズム、ならびにEndMTを経た血管内皮細胞のがん悪性化への寄与の実際は明らかとなっていない。
 我々は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)において、血管内皮細胞の分化および形質維持に重要なETSファミリー転写因子ERGおよびFLI1をダブルノックダウンすることによりEndMTを誘導できることを明らかとした。また、ERG、FLI1ならびに主要なヒストン修飾に対するChIP-seqを行い、両転写因子が血管内皮特異的遺伝子群に対する転写活性化因子であることをゲノムワイドに示したとともに、より詳細なEndMTの制御メカニズムについても解析を進めている。さらに、免疫染色による検討から、B16F10腫瘍内の一部の血管内皮細胞においてERGおよびFLI1の発現が消失していることが観察されており、in vivoの腫瘍内において実際に両転写因子の発現が低下している可能性を見出した。興味深いことに、EndMTを経たHUVECがin vitroにおいてB16F10細胞を強く誘引したことから、腫瘍内で発生するEndMTが血管構造の不安定化および血管近傍へのがん細胞の誘引を介してがん転移を促進する可能性を示すと考えており、個体レベルでの検証に向けた準備を開始している。