アクティブボード・2016年1月
・・・・・2016年 1月 9日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第9回エピジェネティクス研究会年会
2015年 5月25日〜26日(東京都)
タイトル;リジン脱メチル化酵素LSD2は過剰な脂質流入・代謝を抑制することにより肝細胞を保護する.
発表者;長岡 克弥 氏
(熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野、熊本大学 大学院生命科学研究部 消化器内科学分野)
要旨;
細胞活動を支えるエネルギー戦略は、細胞特性に応じて内在性プログラムによって確立されると同時に、栄養、酸素供給等の外的環境に対する適応性も担保している。
特に肝細胞は、全身性のエネルギー恒常性に寄与するために栄養環境を感知して細胞内代謝を精密に調節する必要がある。このような戦略は、エピゲノム形成による可塑的な遺伝子発現制御の上に成立していると考えられるが、その分子機序はほとんどわかっていない。
我々は、H3K4脱メチル化酵素であるLSD2が肝細胞の脂質代謝制御において重要な役割を果たすことを明らかにした。LSD2-ノックダウン(KD)細胞の発現アレイ及び抗LSD2抗体を用いたChIP-seqにより、LSD2が脂質輸送及び合成に関わる遺伝子を直接的に抑制することを見出した。これらの遺伝子座において、LSD2はシス調節領域のモノメチル化H3K4の脱メチル化に寄与していた。興味深いことに、LSD2は脂質代謝遺伝子制御において脂質ストレス応答性転写因子であり脂肪性肝炎と密接に関係するc-Junと機能的に共役していた。
これらの知見を踏まえてLSD2-KD肝細胞を用いてメタボローム解析を行ったところ、脂肪酸やリン脂質等の多様な脂質が細胞内に蓄積していることがわかった。この結果と一致するようにLSD2-KD細胞は多量の脂肪酸負荷による脂肪毒性に対する感受性が増大していた。
以上の結果から、LSD2は肝細胞内において過剰な脂質流入・代謝を抑制することにより脂肪毒性を抑制していることが示唆された。LSD2は栄養環境に応じた代謝転換を担う重要なエピジェネティクス因子である可能性が考えられる。