アクティブボード・2015年 9月
     ・・・・・2015年 9月 4日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第29回モロシヌス研究会
 2015年7月3日〜4日(有馬、神戸)
タイトル;p53 により誘導されるLincRNA-p21 の炎症における機能.
発表者;古畑 理樹 氏
   (熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野)
要旨;
 LincRNA-p21 は、転写因子p53 の下流で発現が大きく変動するlincRNA の1 つとして見つかり、マウスの17 番染色体上Cdkn1a(p21)の近傍から転写されることから、lincRNA-p21 と名づけられた。p53 によるアポトーシス誘導の一部を担っていることや、隣接するp21 をCis で活性化することなど、興味深い機能が複数報告されているが、そのほとんどが培養細胞を用いた解析で生体内では再現されていないものが多い。そこで、我々は現在、lincRNA-p21 の生体内での機能解明を目的とし、lincRNA-p21 遺伝子トラップ(Gt)マウスの解析を行っている。
 LincRNA-p21 は野生型(WT)マウスの全身で発現していたが、Gt マウスは正常に出生し、通常の飼育条件下では目立った表現型は観察されていない。しかし、数百もの遺伝子の転写因子として重要なp53 であっても欠損マウスは一見正常であり、DNA ダメージやストレス等、状況に応じて機能を発揮する。そこで、lincRNA-p21 もp53 の発現上昇に伴い機能を発揮するのではないかと考えた。特に、近年、ヒトのT 細胞株や単球細胞株において、炎症時に活性化するNF-kB がlincRNA-p21 により抑制されているとのが報告なされ、lincRNA-p21 は炎症時に重要である可能性が示唆される。そこで、lincRNA-p21 の発現が強い膵臓に着目をし、セルレイン投与により急性膵炎を誘導した。
 セルレイン膵炎を誘導した膵臓では、p53 の発現上昇に伴いlincRNA-p21 が誘導され、さらにGt マウスでは炎症性サイトカインの発現が上昇していた。このことから、lincRNA-p21 は生体内においてもp53 による誘導を受けること、そして炎症を軽減する機能が示唆される。今後、WT とGT マウスでの膵炎重症度の比較、およびNF-kB を含めた詳細なメカニズムを解明していきたい。