アクティブボード・2015年 9月
・・・・・2015年 9月 4日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第29回モロシヌス研究会
2015年7月3日〜4日(有馬、神戸)
タイトル;日本の野生マウス系統MSM/Ms 由来のES 細胞を用いた遺伝子トラップによるミュータジェネシス.
発表者;中原 舞 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野)
要旨;
背景と目的:日本の野生マウスから樹立されたMSM/Ms は、汎用されるC57BL/6 とはゲノム配列・表現型ともに大きな違いを持つ。従って、遺伝子改変MSM/Ms マウスの作製および解析は、従来の実験用マウスで得られてきた知見とは異なる、新たな遺伝子間相互作用や疾患発症メカニズムの発見につながると期待される。当研究室では、このMSM/Msから生殖系列への分化能を持つES 細胞Mol/MSM-1 の樹立に成功している。本研究では、
Mol/MSM-1 を用い、従来のES 細胞と同様に遺伝子トラップマウスの作製に利用できるシステムを確立することを目的として実験を行った。
方法:我々はこれまでにC57BL/6 とCBA のF1 胚由来ES 細胞KTPU8 を用いプロモータートラップ法により遺伝子トラップを行ってきた。そこで、同じ手法でMol/MSM-1 を用いて遺伝子トラップを行い、KTPU8 での成績と比較した。また、より多様な遺伝子を破壊するため、PiggyBac トランスポゾンを用いた新たなポリA トラップベクターを開発し、そのベクターを用いた場合の遺伝子トラップ効率も検討した。
結果:まず、プロモータートラップベクターをMol/MSM-1 およびKTPU8 に導入し、単離した各ES クローンでトラップした遺伝子をrapid amplification of cDNA ends (RACE)および周辺ゲノム解析により同定した。予想外に、Mol/MSM-1 ではベクターが高頻度(全体の41%)でrDNA に挿入され、構造遺伝子のトラップ効率が低い結果となった。プロモータートラップベクターは、rDNA を含めES 細胞で発現が高い領域に挿入されやすい性質を持つため、内在性遺伝子の発現に依存しないポリA トラップベクターを用いれば、これを回避できると考え、ベクターpPB3’TRAP を構築した。また、通常のポリA トラップの場合、nonsense-mediated mRNA decay (NMD)のために最も3’側のイントロンに挿入が集中する欠点があるが、NMD を回避するための工夫も加えた。このポリA トラップベクターで得られたクローンにおける3’-RACE 成功率は約9 割に達し、また、rDNA トラップの頻度も5%程度と問題にならない程度の低さであり、かつ6 割が構造遺伝子内に挿入していた。
まとめ:Mol/MSM-1 は、プロモータートラップにおいてはrDNA トラップが高頻度に起こることで全体のトラップ効率は低くなってしまうが、本研究にて新たに開発したpPB3’TRAP を用いたポリA トラップでは、効率よくトラップクローンを得ることが出来た。従って、MSM/Ms での遺伝子トラップライブラリー作出に非常に有効であると期待できる。また、この手法は、他の細胞や動物種でも応用可能であり、ゲノム解析技術の進歩が目覚ましい今、有力なmutagenesis のツールになると期待される。