アクティブボード・2015年 8月
・・・・・2015年 8月 4日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第29回モロシヌス研究会
2015年7月3日〜4日(有馬、神戸)
タイトル;染色体特異的にクラスターを形成しているトラップ領域(CSCT13)の解析.
発表者;武田 伊世 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター バイオ情報分野)
Abstract;
ヒトゲノムが解読され、その半分近くはLINEやトランスポゾン等の繰り返し配列であることが明らかとなった。これらの繰り返し配列はゲノム全体に広がっており、染色体特異性はない。当研究室では、可変型遺伝子トラップ法を開発し、データベース『EGTC』(Database for the Exchangeable Gene Trap Clones)を全世界に公開している。そのトラップした遺伝子のアノテーションを行う過程において、染色体特異的にクラスターを形成しているトラップ領域(Chromosome Specific Clustered Trap region ; CSCT)を発見した。EGTCに登録しているCSCTをトラップしているクローンは39クローンあり、染色体順にCSCT2・CSCT4・CSCT12・CSCT13が存在する。これらの得られたトラップクローンはクラスターの中の1個を破壊しているだけで、その遺伝子の機能をつぶしているとは考えられない。そこで本研究では、クラスター領域全体を除去することで、CSCTの生体内における機能解析を行うことにした。しかし、クラスター全体を除去するということは、その領域内に存在する他の遺伝子の影響も考慮する必要がある。そのため、領域内に存在する遺伝子が最も少ないCSCT13に焦点を絞った。
CSCT13のクラスター全体を欠損するにあたってゲノム編集技術を用いることにした。まずCSCT13が占めている1.6 Mbp領域の上流と下流にアームを設定し、ターゲティングベクターを作製した。今回、通常の二本鎖切断(DSB)活性をもつ野生型Cas9(pX330)と、nickase活性を持つCas9 D10A(pX335)という2種類のCas9を使用した。野生型Cas9では両アームの内側にDSB、Cas9 D10Aでは両アーム内及びゲノム上にニックを加えるようにガイドRNA(gRNA)を設定した。pX330、pX335と作製したターゲティングベクターをES細胞に導入し、薬剤耐性クローンをピックアップし、PCR・シーケンス解析・サザンブロットによりスクリーニングを行った。その結果、野生型Cas9では48クローンのうち、左側のみで組換えが起きているものが1つ、右側のみが4つあったが、両方で組換えが起きているクローンは得られなかった。Cas9 D10Aでは48クローンのうち、左側のみで組換えが起きているものが1つ、右側のみが5つ、両方で組換えが起きて、1.6 Mbpを欠損したクローンが1つ得られた。ゲノム編集としては相同組換えの効率は低かったが、欠損した領域が非常に広いため通常の方法では得ることはできなかったと予想している。
CSCT13をノックアウトしたES細胞からキメラマウスを作製し、マウスラインを樹立した。今後、ヘテロ接合体及びホモ接合体マウスの表現型解析を行う予定である。