アクティブボード・2015年 7月
・・・・・2015年 7月 2日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第4回CREST 「エピゲノム」領域班会議
2015年2月20日〜21日(大阪)
タイトル;ヒトレトロウイルスHTLV-1とCTCFインスレーター.
発表者;佐藤 賢文 氏
(熊本大学 国際先端医学機構 エイズ学研究センター 佐藤研究室)
Abstract;
成人T細胞白血病(ATL)細胞のゲノムには、レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)のモノクローナルな組み込みが認められる。HTLV-1の病原性に関わるウイルス遺伝子として、プラス鎖にtax、マイナス鎖にHBZがコードされている。ATL細胞における発現パターンを調べてみると、taxの発現はしばしば抑制されているのに対し、HBZの発現は恒常的に認められる。わずか9千塩基という小さいHTLV-1ゲノム内で、そのようなON/OFFの遺伝子発現パターンが形成、維持される仕組みはこれまでよく分かっていない。
最近、我々はHTLV-1のプロウイルスにCTCFが結合する事を見出した。CTCFはゲノムの高次構造を制御する主要な分子として知られる。まず、HTLV-1のゲノムにCTCFの結合コンセンサス配列があるか調べたところ、CTCF結合の候補領域が特定された。次に実際にCTCFがHTLV-1プロウイルス近傍に局在するかを、CTCF抗体を用いたクロマチン免疫沈降法で調べたところ、CTCFのプロウイルスへの局在が認められた。さらに、CTCFがHTLV-1 DNAへ直接結合する事がゲルシフトアッセイで確認された。
HTLV-1プロウイルスのエピゲノムの特徴がCTCF結合部位の前後で大きく異なる事から、CTCF結合によりHTLV-1ゲノム内にインスレーターが形成されている事が示唆された。そのCTCF結合領域を用いてエンハンサーブロッキング活性を評価したところ、わずか100bpという短い配列でも明らかなエンハンサー阻害活性を示した事から、ウイルスのCTCF結合領域のインスレーター機能が証明された。
内在性、外来性のレトロウイルスにおいて、ウイルスゲノムにCTCFが結合するという報告はこれまでに無い。CTCFの結合やそれに付随するHTLV-1のエピゲノムの特徴は細胞株だけでなく新鮮ATL細胞でも認められた事から、CTCFの結合とそれによるエピゲノム制御機構がATLの腫瘍化メカニズムにおいて重要なメカニズムである事が示唆された。