アクティブボード・2015年 5月
     ・・・・・2015年 5月 8日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第37回日本分子生物学会年会
 2014年11月25日〜27日(横浜)
タイトル;CRISPR/Cas9による2本鎖切断・1本鎖切断を利用した場合のマウスES細胞における相同組換え効率の比較.
発表者;荒木 喜美 氏
   (熊本大学 生命科学研究・支援センター 疾患モデル分野)
Abstract;
 CRISPR/Cas9は、ゲノム編集の新しいツールとして急速に普及しているRNA誘導型核酸切断酵素で、Cas9 DNA切断酵素が、ガイドRNA (gRNA)分子を介してこれと相補的な塩基配列を持つゲノム配列まで誘導され、その配列特異的にゲノムDNAの切断を行う。切断に伴い、DNA修復機構が誘導されるため、ホモロジーアームを持つノックアウトベクターを同時に導入すると、相同組換えが高率におこり、組換え体を容易に得ることが出来る。しかし、2本鎖切断(DSB)を起こす場合には、非相同末端結合(NHEJ)による修復も誘導されるため、off target 効果が懸念されている。その回避のための工夫の一つとして、2つあるDNA切断活性部位の片方に変異を加え、nickaseとして働くようにしたCas9 D10A の使用が報告されている。
我々は、マウスES細胞において相同組換えを起こす際、通常のDSB活性を持つCas9と、nickase活性を持つCas9 D10A を用いる場合のどちらが使い勝手がよいかを検討した。
 ターゲティングベクターのアームに含まれないゲノム上の1カ所にDSBを加えるようなCRISPR/Cas9を用いた場合、相同組換えの効率は7割以上と非常に高いが、組換えの起こらなかったアレルに高頻度でNHEJによる変異を引き起こし、それは、サザンブロットでバンドの変化として検出できる程の大きな変化である場合も多いことが分かった。一方、両アーム内及びゲノム上にニックを加えるようにCRISPR/Cas9を用いた場合、相同組換えの効率は5割以下であったが、組換えの起こらなかったアレルに変異を引き起こすことは認められなかった。ホモ接合体が致死である遺伝子の場合には、両アレルの変異はマウスライン樹立に影響を及ぼすことから、そのような場合にはnickaseの利用が良いと考えられる。