アクティブボード・2014年10月
     ・・・・・2014年10月 2日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第73回日本癌学会学術総会
 2014年 9月25日〜27日(横浜)
タイトル;CHOP欠損による慢性膵炎からの膵線維化進展.
発表者;髙城 克暢 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 消化器外科学分野、生命資源研究・支援センター 技術開発分野)
Abstract;
【目的】小胞体ストレスは神経変性疾患、糖尿病、動脈硬化、心疾患、膵疾患など様々な疾患の病因と関わっている。C/EBP homologous protein (CHOP) は小胞体ストレスによって誘導される転写調節因子であり、また小胞体ストレスが媒介するアポトーシス経路の主要な因子であるGADD153としても知られている。膵臓では持続的な炎症から膵線維化が起こり、比較的高頻度に膵管腺癌を発症する。今回、膵臓の線維化における小胞体ストレス-CHOP経路の役割を明らかにする。
【方法】遺伝性膵炎の原因遺伝子であるSPINK1(serine protease inhibitor Kazal type1)遺伝子のマウスホモログSpink3遺伝子のノックアウトマウス(Spink3-/-)は膵外分泌機能不全の結果、生後2週間以内に死亡した。そこでSpink3ヘテロ欠損ES細胞のSpink3遺伝子プロモーター下にヒトSPINK1遺伝子をCre-loxPシステムを用いて置換し、SPINK1ノックインマウス(Spink3SPINK1/+)を樹立した。このマウスとChopノックアウトマウス(Chop-/-)を交配して、Chopが欠損したマウス(Chop-/-; Spink3SPINK1/-)を樹立した。2週齢と4週齢のマウスについてHE染色とSirius red染色で膵線維化を評価した。また膵星細胞の活性化のマーカーであるα-SMA, TGF-β1, Desminと外分泌能のマーカーであるamylase, trypsinogenについてWestern blottingを行った。
【結果】野生型(Chop+/+)とChop-/-の膵臓に明らかな差を認めなかった。2週齢でSpink3SPINK1/-とChop-/-; Spink3SPINK1/-の体重に有意な差を認めなかった。しかし4週齢ではChop-/-; Spink3SPINK1/-の体重はSpink3SPINK1/-より減少していた(p<0.001)。その一方、Spink3SPINK1/-とChop-/-; Spink3SPINK1/-の生存に有意な差を認めなかった。2週齢でSpink3SPINK1/-と比較してChop-/-; Spink3SPINK1/-に膵線維化の進展と膵星細胞の活性化を認めた。さらに2週齢のChop-/-; Spink3SPINK1/-でα-SMAとDesminの発現が亢進していた。
【考察】小胞体ストレス-CHOP経路は慢性炎症において膵星細胞を不活性化することで膵線維化の抑制において重要な役割を果たしている可能性がある。さらに慢性膵炎に対する小胞体ストレス-CHOP経路を介した抗炎症治療により、膵癌発症が軽減されることが期待される。