アクティブボード・2014年 4月
     ・・・・・2014年 4月 4日更新・・・・・

研究発表を行う予定の学会;
・第19回 日本病態プロテアーゼ学会学術集会
 2014年 8月 8日〜 9日(大阪)
タイトル;プロスタシンによるTLR4の発現制御を介した肝臓におけるインスリン抵抗性発症機序の解明.
発表者;内村 幸平 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野)
Abstract;
[背景・目的] 私たちは腎臓においてセリンプロテアーゼの一種であるプロスタシンが上皮型Naチャネル(ENaC)を活性化し、生体内のNa代謝に関与していることを報告してきたが、その他の生理的機能については不明な部分が多く残っている。今回、ENaCの発現が認められないにも関わらず、腎臓と同程度にプロスタシンが発現している肝臓に着目し、プロスタシンの新規生理的機能の解明を目指した。
[方法] ①Cre/loxPシステムを用いて肝臓特異的プロスタシンKO(LKO)マウスを作製し、その表現型を観察した。②高脂肪食負荷およびdb/dbマウスの肝臓におけるプロスタシン発現量の検討を行った。③肥満によって誘導されるERストレスがプロスタシン発現に与える影響を観察した。④プロスタシンの標的因子の同定を行った(TLR4であることが判明)。⑤アラニンスキャニング変異導入法を用いてプロスタシンによるTLR4の切断部位の同定を行った。⑥アデノウイルスベクターやin vivo用siRNA(invivofectamine™2.0)を用いてレスキュー実験を行った。⑦153人のヒト健常男性の血清プロスタシン濃度をRIAで測定し、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)と肥満度(BMI)との相関を検討した。
[結果]LKOマウスは耐糖能異常、肝臓におけるインスリン抵抗性を呈し、高脂肪食負荷やdb/dbマウスの肝臓においてプロスタシンの発現量が著しく低下していることがわかった。また、In vitroの実験系でプロスタシンはTLR4の560,561番目のリジン残基を切断することで、TLR4の発現を抑制することがわかった。また、肥満によって肝臓で誘導されるERストレスがプロスタシンの発現を抑制することも判明した。すなわち、肥満によって誘導されるERストレスがプロスタシンの発現を抑制し、切断を免れたTLR4がLPSやFFAをリガンドとして肝臓において過剰な炎症反応を惹起し(慢性炎症)、インスリン抵抗性へと進展するという一連のメカニズムが解明できた。最後に、血中のプロスタシンは主に肝臓から供給されていることが示唆され、153人のヒト健常男性の血清プロスタシン濃度を測定したところ、HOMA-IRやBMIとの逆相関することがわかった。
[結語]プロスタシンの新たな生理的機能としてTLR4の切断による発現制御が明らかとなり、飽食・肥満による糖尿病発症メカニズムの一因を解明することが出来た。本研究は、予防が中心であったメタボリック症候群に対して肝臓のプロスタシンを増加させることによって糖尿病への進展を阻止できる可能性を示唆しており、新規治療法開発が期待できる。