アクティブボード・2014年 3月
・・・・・2014年 3月 3日更新・・・・・
研究発表を行った学会;第36回日本分子生物学会年会
2013年12月 3日〜 6日(神戸)
タイトル;軽度低酸素による膵β細胞障害機構の検討.
発表者;佐藤 叔史 氏
(熊本大学 大学院生命科学研究部 病態生化学分野)
Abstract;
[背景] 我々は、糖尿病モデルマウス(ob/obおよびKK-Ayマウス)膵島が低酸素に曝されていることを見出した(Sato Y. 2011 JBC)。低酸素による細胞傷害性や低酸素応答に関する研究は、癌研究で多くの知見が集積されているが、癌細胞が暴露されている酸素濃度は0~1.5%O2と極めて高度な低酸素が想定されている。生体組織内の酸素分圧はおよそ5%O2と考えられており、癌細胞とは異なり生理機能を有した正常細胞が曝されうる酸素濃度はより軽度な低酸素であることが推測される。
[目的] 糖尿病の膵島でも同様の可能性が考えられ、我々は軽度な低酸素がβ細胞機能、および生存度に与える影響を検討した。
[方法] β細胞株MIN6細胞を通常酸素(20%O2)および3%、5%、7%、10%O2の低酸素に暴露した時の糖応答性インスリン分泌能、各種遺伝子群(解糖系、インスリン合成関連、ミトコンドリア遺伝子など)の発現レベルの検討を行った。また低酸素条件下におけるβ細胞生存度の変化をAnnexin V / PIで染色しフローサイトメトリーにより解析した。またアポトーシスの指標として切断型のCaspase3とPARP蛋白の検出をウエスタンブロットにより行った。
[結果] 1%O2などの極度の低酸素下にあるβ細胞および単離膵島からのインスリン分泌の低下が既に報告されていたが、本検討から、短時間(4h)7%O2に暴露した場合、また長時間(48 h)5%O2に暴露した場合においても有意な糖応答性インスリン分泌の低下(短時間,24%低下、長時間,66%低下)を認めた。また5%O2に30 h暴露した時のMIN6細胞では、GLUT1, G6PI, PGK1などの解糖系遺伝子が上昇していた。一方で、GLUT2(57.5%低下), Insulin 1(43.8%低下), PDX-1(61.4%低下), MafA(96.9%低下)の遺伝子発現が著明に低下していた。また7%あるいは10%O2に24h暴露した時のAnnexin+, PI+の細胞の割合は低酸素強度に比例して増加し、いずれの場合においても細胞内の切断型Caspase3、PARPの蛋白量が増加していた。
[結語] 5%、7%O2といった軽度な酸素量の低下でも、β細胞におけるインスリン分泌能、および生存度が有意に低下した。生体内でも同様に、わずかな酸素供給の低下でβ細胞が傷害され、機能低下や細胞死の増加が引き起こされている可能性がある。