アクティブボード・2013年12月
・・・・・2013年12月 6日更新・・・・・
研究発表を行った学会;
・第60回日本ウイルス学会学術集会
2012年11月13日〜15日(大阪)
タイトル;HTLV-1 Taxトランスジェニックマウスにおけるp53およびNF-κBの動態.
発表者;大杉 剛生 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 病態遺伝分野)
Abstract;
ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は、約60年もの長い潜伏期間の後、腫瘍性疾患である成人T細胞白血病(Adult T-cell leukemia: ATL)あるいは炎症性疾患であるHTLV-1関連脊髄症/熱帯痙性麻痺(HAM/TSP)等を引き起こす。このウイルスは、pXと呼ばれる特異な領域をもち、tax遺伝子をコードする。我々は、その遺伝子産物Taxを成熟T細胞に発現するTaxトランスジェニック(Tg)マウスを作製し、このマウスがATLと良く似た成熟T細胞白血病を引き起こすことを報告した。
ATL患者においては、がん抑制遺伝子p53の機能が低下していることが知られているが、他のがんと比較し、変異は多くはない。また、多くのがんと同様NF-κBの恒常的な活性化が認められ、その活性化が発がん、がん細胞の維持、および転移等に重要と考えられている。この2つの重要なイベントは、同時に起こるのであろうか? あるいは別々の時期に起こるのであろうか? また、そうであるならどちらかが先に先行するのであろうか? これら疑問に答えるため、Tax-Tgマウスを用いて解析を行った。
Tax-Tgマウスは、C57BL/6マウスと交配し、ヘテロで維持し、同腹のnon-Tgマウスとp53機能およびNF-κB活性について、4か月齢から24か月齢まで検索した。p53の標的遺伝子発現を指標にした機能検査では、4から10か月齢のTax-Tgマウスの71%が、10か月齢以上のマウスでは75%のマウスにおいて、同腹のnon-Tgマウスに比較し、その機能の有意な低下が観察された。また、p53の変異は全期間を通して検出されなかった。NF-κBの活性化は、10か月齢未満ではTax、non-Tgマウスともに全く観察されなかったが、10か月齢以上の37.5%のTax-Tgマウスにおいて、コンポーネントがp50およびrelBであるNF-κBの活性化が観察された。このことから、Tax-Tgマウスにおいてはp53機能不全が先行し、次いでNF-κBの活性化が起こり、それとともに成熟T細胞白血病を発症することが明らかとなった。