アクティブボード・2013年 9月
     ・・・・・2013年 9月 4日更新・・・・・

研究発表を行った学会; 新学術領域研究「修飾シグナル病」第3回領域推進会議
 2013年 7月 5日〜 6日(東京)
タイトル;慢性腎疾患におけるp53の腎保護的機能の解明.
発表者;福田 亮介 氏
   (熊本大学 大学院薬学教育部 遺伝子機能応用学分野)
Abstract;
 Alport Syndrome (AS) は糸球体基底膜のコラーゲン変性によって生じる遺伝性の慢性腎疾患である. AS等の慢性腎疾患の病態進行過程には尿濾過に重要なpodocyteの脱分化や異常増殖が誘導されることが知られている. 本研究では細胞の分化維持や増殖抑制を司るp53遺伝子に着目し, ASモデルマウスを慢性腎疾患モデルとして用いることによってp53の腎病態形成における働きを調べることを目的とした. ASモデルマウスとp53欠損マウスを交配させることでp53+/-, -/-型のASマウスを作製し, p53欠損ASマウスとp53+/+ ASマウスの様々な腎病態を比較することでp53の腎病態への影響を調べた. p53+/+, +/-, -/- ASマウスに対して病態進行の指標となるタンパク尿の評価及び生存率の測定を行った結果, p53遺伝子の欠損に従ってASによるタンパク尿スコアの増加と,生存率の顕著な低下が確認された. また, WTマウス, p53+/+, +/- ASマウス腎臓に対しPAS染色, Masson’s trichrome染色を行った. その結果, p53+/- ASマウスにおいてp53+/+ ASマウスよりも進行した腎線維化やpodocyteの増殖による糸球体半月体形成も確認された. またp53 +/+, -/- マウスから得た初代培養podocyte細胞株を用いてpodocyteの分化や遊走, 増殖におけるp53の役割を調べた. p53+/+, p53-/- 初代培養podocyteにおいてpodocyte分化マーカー遺伝子であるPodocin, Nephrin等の発現量をq-RT-PCR法によって比較した結果, p53-/- podocyteにおいて発現が低下していた. またp53活性化剤であるNutlin-3処理により, podocyte分化マーカー遺伝子の発現は増加した. 更にp53+/+, -/- マウスの腎臓より糸球体を単離培養し, podocyteの増殖能を増殖面積定量によって調べた結果, p53-/- podocyteにおいて単離時の増殖能が高まることが示された. これらの結果よりp53が腎病態進行抑制的に働くこと, podocyteの分化状態維持や増殖抑制に重要であることが初めて示された.