アクティブボード・2013年 9月
     ・・・・・2013年 9月 4日更新・・・・・

研究発表を行った学会;
・第2回次世代創薬研究者養成塾
 2013年 8月 8日(熊本)

タイトル;精神神経疾患治療薬の個別化投与設計法の開発.
発表者;猿渡 淳二 氏
   (熊本大学 大学院生命科学研究部 薬物治療学分野)
Abstract;
 我々が着目する「てんかん」や「統合失調症」は人口の約1%が、「うつ病」は5%以上が罹患する極めて頻度の高い精神神経疾患であるが、その治療の要である抗てんかん薬や抗精神病薬、抗うつ薬は体内動態の個人差が大きく、また約30%の患者で治療に抵抗性を示す。加えて、これらの長期投与による肥満や生活習慣病は服薬アドヒアランスを低下させるだけでなく、一般住民の1.4~2.6 倍にのぼる高い死亡率にも関係する。
 我々は、実用可能な個別化薬物療法を目指して、薬物動態(PK)や、薬力学(PD、副作用としての生活習慣病発症を含む)に関係する遺伝並びに他の患者要因の影響を、総合的に、かつ定量的に解明する精神神経疾患治療薬の臨床研究に着手している。すでに、一部の抗てんかん薬や抗精神病薬では以下の結果を得た。

1) Population PK analysis:薬物代謝酵素cytochrome P450 (CYP) 2C19の欠損者では抗てんかん薬クロバザム及びその活性代謝物(N-CLB)のクリアランスがそれぞれ33%、85%低下し、N-CLBの血中濃度の上昇に伴いクロバザム治療の有効率及び副作用発現率が高ことを明らかにした。本結果より、クロバザムの推奨投与量をCYP2C19欠損者では非欠損者の約15%であると推定した。
2) Population PK/PD analysis:抗てんかん薬バルプロ酸を服用した際のγ-glutamyltransferase基準値外上昇リスクは、superoxide dismutase 2(SOD2)のVal16Ala遺伝子多型により最大2倍異なることを明らかにし、バルプロ酸によるVPAによる脂肪肝リスク軽減を目的とした、SOD2遺伝子型ごとの個別化投与設計が可能となることを示唆した。
3) Multiple regression PD modeling:バルプロ酸服用患者のうち、女性では、CYP2C19欠損者は非欠損者に比べて肥満リスクが約7倍高く、女性のバルプロ酸服用患者ではCYP2C19遺伝子型ごとに肥満の個別化予防が可能となることを示唆した。
4) Meta-analysis:抗精神病薬であるオランザピンとクロザピンの血中薬物濃度/投与量比[(ng/ml)/(mg/day)]は、喫煙者では非喫煙者に比べて、それぞれ0.75、1.11低いことを明らかにした。本結果は、臨床において、喫煙の有無や禁煙時でのオランザピンとクロザピンの投与量調節を行う際の目安になると考える。

 我々の研究により、充分な効果が得られ、かつ、副作用リスクが低くなるような精神神経疾患治療薬の推奨投与量を、遺伝並びに他の患者要因毎に提案できれば、未だ一部の例でしか実用化に至っていない、遺伝等の患者情報に基づく当該薬物の個別化薬物療法の拡大につながると考える。